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星蒼圏 - 保管庫モバイル
ただ、兄さん/雪男が好きなだけ。
その背に、一体どれほど重い責任を背負っているかなんて、想像もつかなかった。
幼い頃から、いつか来るであろう悪夢の日のために、悪魔と戦う道を選んだ雪男。
その年齢で祓魔師の称号を手にするなど、なみなみならぬ努力が必要なのに、ましてや実の兄が悪魔だという現実まで背負わなければならないなんて。
辛い運命だとは思うが、今更自分がしてやれることなんて何もなかった。
彼の言うとおり、自ら命を断つべきだろうか。
いや、きっとそんなことでは、彼の重荷が取れるはずもない。
今は、少しでも彼に追い付いて、彼の背負う重いモノを少しでも軽くしてやりたいと願うだけだ。
―――だから。
こうして少しでも長く傍にいられることが嬉しかった。
慣れない勉強に辟易すれば、一分と立たずに叱咤が飛んでくることに喚きつつも、
ニヤける顔を抑えきれなかった。
きっと、彼にしてみれば、ふざけているようにしか見えないだろうけれど。
確かに、穏やかで幸せな時間だと思ったのだ。
こうして、今、隠し事という厚い壁が跡形もなく消え去った自分たちの距離は確かに狭まり、
漸く蟠りが解けたような気さえする。
「・・・なぁ、雪男」
「なに?」
終わらない課題を一時中断して、隣の弟のほうを見やった。
真剣な眼差しで机の上のパソコンに向かい、これからの授業に使うプリントを仕上げている雪男は、
私服ではあるが大人びた教師の顔をしていて、少しだけ寂しい気持ちになる。
二人だけの部屋でくらい、以前と変わらない弟の顔で居て欲しいと思う。
だから燐は、席を立つと、ひたりと雪男の傍へと近づきそうして彼の背後から彼を抱きしめた。
無理をする弟を宥めるように、ぽんぽんと肩まで叩いて。
「・・・兄さん?」
「大変だろ?お前も少し、休めよ。そんなに頑張らなくても大丈夫だって」
「ちょ・・・何馬鹿なこと言ってるの。」
醒めた視線の彼が、更に呆れた表情で自分を見やるものだから、
燐はうっ、と腕を引っ込めかけたが、いや、それでは弟を思いやる兄、としての立場が危うくなってしまう。
どんなに馬鹿でも、優秀な彼に相応しくない人間だろうと、彼の兄なのだ。
一応、こういう時ぐらい、兄に甘えて欲しいと思うのだが。
「っば、馬鹿じゃーねよ。俺は、お前のためを思ってだな・・・」
「そうやって先延ばししてばかりだから、身につかないんだよ。兄さんの場合」
はぁ、とあからさまにため息をついて、雪男はパソコン画面に向き直る。
いよいよ相手にされないことに落ち込んだ燐は、しばらく雪男の首に絡みついたまましょんぼりと尻尾を床に垂らしていたが、
不意に、己の腹の虫が泣いていることに気付いた。
そういえば、夕食の後、何も口にしていない。・・・ということは、きっと雪男もお腹が空いているだろう。
先ほどからの状況から見て、きっと深夜が回っても雪男が仕事をしているのは確実で、
それならば、自分の唯一の得意分野で彼をサポートしてやるほかないではないか。
「じゃ、じゃあ、夜食作ってやるよ!何が食べたい?」
「何が食べたい、ね・・・」
雪男は軽く首をかしげ、思案げに顎に手を当てていたが、やがて何かを思いついたように小さく笑みを浮かべた。
すっと両腕を伸ばして、先ほど兄が自分にしてくれたように身体を引き寄せれば、
燐の身体は戸惑ったように揺れる。
微かな抵抗を押さえ込んで、雪男は彼の耳元に唇を近づけて囁く。
吐息が耳に触れ、燐の身体は飛び上がるほど。
「兄さんが、食べたいな」
「・・・・・・へ?」
雪男の言っていることが、まったく理解できず固まる燐は、
確信犯の雪男にしてみれば可愛くてたまらない。
彼が逃げ出さないのを言いことに、舌でぺろりと耳殻を舐め上げてやった。
悪魔の特徴のひとつである尖った耳の輪郭を辿れば、さすがに燐もぞくりと背筋を震わせ、
雪男の腕の中から逃れようとじたばたと暴れ出した。
「ひゃ、あっ!!」
悲鳴を上げて、ドンと突き飛ばすようにして逃れた燐は、
途端に部屋を飛び出し、そのまま転がり落ちるようにして階下へと行ってしまった。
その顔は、見たこともない位真っ赤に染まっていて、
初心な兄さんにはちょっと刺激が強すぎたかな、と雪男はくすりと笑う。
けれど、燐にしてみれば、ちょっとどころの騒ぎではなかった。
(な、な、なんなんだよ、アイツ・・・)
吹き込まれた耳元が、まだ熱い。
心臓がバクバクと鳴っているのを止められないまま、燐はそっと真っ赤に染まったままの耳を押さえる。
頭に響くのは、先ほど雪男の口元から発せられた、あの言葉。
―――兄さんが、食べたいな
「俺が食べたい、って、お前・・・・・・」
あまりに突然のことで、本当に意味が分からない。
動揺したまま、どうにか厨房までたどり着いたが、冷蔵庫をあけて適当な食材を探そうにも、
頭が雪男の想像もつかなかった発言に埋めつくされていて、何も考えられなかった。
先ほどの、空腹を訴える己の腹なんかすっかり忘れていて。
雪男の存在だけが、燐の脳を支配する。
けれど、一番驚いたのは、たったあの雪男の一言で、自分がどれほど意識をして、照れたように顔を赤くしているのか、という事だった。
兄なのだ。弟の冗談めいた発言に、いちいち動揺しているなんて一体どういうことなのか。
そうだ、冗談に決まっている。
悪魔じゃあるまいし、人間をぱっくり食べたい、などと思う人間がどこにいるのか。
冗談だ、冗談に決まってる、とそう自分自身に言い聞かせ、
燐は深く息を吸い込み、そうしてゆっくりと吐いた。
ぺちぺちと頬を叩いて、なぜか真っ赤に火照っている自分を戒める。
そうして、今度は燐は、彼の言葉の真意をうんうんと悩み始めた。
一体、“食べたい”とは、どういう意味なのか。
けれど、今の燐には、どれほど考えても、答えなど出るはずもなかった。
恋愛事情などに疎い燐には、いや、それ以前に、兄弟同士の会話から飛び出した発言なのだ、
そういう意味で彼が捉えるはずもない。
だからこそ、燐は、悶々と悩み続け、気づけば温めていたスープが熱湯のように沸騰してしまっていた。
(・・・なんか、戻りづれぇ・・・)
とりあえず、湯気がもくもくと立っているスープを深皿に装い、やっとのことで部屋に戻ると、
燐は苦虫を噛み潰したような顔で雪男の背を眺めた。
いつの間にか、知らない間に、自分よりも大きくなっていた弟。
身長も、肩幅も、体格も去ることながら、自分などよりよっぽど大きなものを背負えるようになっていた雪男に、
初めは反発などしたことだってある。いや、今だって、なかなか素直になんてなれない。
まさか、格好いい、とか思うなんて。
自分にはどうマネしたって出来ないことばかりをこなしてしまう彼に嫉妬してしまいそうだった。
ぼーっと突っ立っていたまま、何分が過ぎたろう?
ふと、キィ、と回転イスが回る音がして、穴が開くほど見つめていた背がくるりと回った。
「ほら、兄さん、やっと終わったから。一緒に食べよう」
「・・・あ、・・・」
不意打ちだった。
先程まであれほど堅苦しい面持ちをしていた雪男が、くしゃりとまるで子供の頃のように笑ってみせたからだ。
ようやく収まりかけていた心臓の鼓動が、再び跳ね上がるのを感じた。
どの道、手元のスープはもう少し冷まさないと口に出来るものではない。
だから燐は、カチコチに固まる身体を必死に動かして、どうにか手にしていたトレイを自分の机に置いた。
雪男の顔なんか見られなかった。みるみるうちに血が登っていく自分の顔を止められなかったから。
「兄さん?」
「・・・・・・お前、さっきの・・・どういう意味だよ」
何か言おうと思って口を開いた途端、思っても見ない言葉が漏れた。
いや、意識はしていた。確かに疑問を覚えてはいたが、まさか直接、ストレートに聞くつもりなんか、さらさらなかったはずなのに。
だが、それは雪男のほうも同じだった。
本当の本音ではあるが、隠し続けていた兄への劣情を、冗談めかしにとはいえ告げてしまったことを
少しだけ後悔していたのだ。階下に降りていった兄が再び戻ってきたとき、
果たして自分は普通でいられるのか?
忘れてくれたら、いや、聞かなかったことにしてくれればと願った。
ようやく手に入れた穏やかな時間を、雪男もまた壊したくなかったから。
だが、そんな予想をはるかに上回る兄の言葉が、
文字通り弟の動きをも固まらせた。
嫌われたくない、という臆病な心と、このまま真実を吐き出してしまいたい欲望とがせめぎ合う。
「まさか兄さん、意識、してくれてたの?」
「っか、可愛い弟がそこまで言うんなら・・・考えてやらんでも、ない。・・・」
またもや、雪男の想像をはるかに上回る発言をしてしまう燐。
とはいえ、自分が何をすればいいのか、何をされるのかすら、燐には謎ばかりだ。
緊張した面持ちで、視線を逸らしたままの燐に、
雪男はゆっくりと座っていたイスから立ち上がった。
確かめるように燐の瞳の青を見つめながら、触れるほど傍まで近づく。燐が逃げ出すことはなかった。
震えの止まらない身体を必死に留め、雪男が肩に手をおけば、気丈にも見上げてくる面持ち。それは、どこか覚悟を決めた顔で。
その表情を見た瞬間、雪男の理性は吹き飛んでしまっていた。
「ゆ、雪男・・・?」
「じゃあ・・・試してみる?」
「・・・っお、おう」
メガネを外し、近づいてくる唇に、本当にぱくりと食われてしまうのではないかと怖くなり、燐は思わずぎゅ、と瞳を閉じてしまった。
その途端、ふにゅ、と唇に触れた柔らかな感触。しかも、それはしっとりと濡れていて、
思わず燐は、すがるように雪男のシャツを握りしめる。
「っ・・・ふ、んう―――っ・・・」
何度も角度を変え、丁寧に唇をなぞっていく甘い感覚。混乱した頭の中で、燐はぼんやりと雪男がしていることを理解した。
まさに、初めての経験だった。確かに、燐だとて異性の女の子に対して興味がないわけではないし、
その胸元の膨らみにドキドキしたことだってある。けれど、具体的に好きだとかキスしてみたいだとかその先のことなんて意識したこともなかったから、
動揺する。しかも、相手は同性の、・・・ましてや、血の繋がっている実の弟!
けれど、不思議と嫌だとは思わなかった。角度を変える度に、ぎゅ、としがみつく指先に力が篭る。
息継ぎすらうまくできない状況で、苦しげに眉を寄せて耐えれば、
そんな健気な兄の姿にいよいよ止まらなくなってしまった雪男の舌が、弛緩しきった歯列を割って内部へと侵入する。
「や、ぁうーーーっっ、」
「ふふっ・・・兄さんのナカ、甘いね・・・」
くちゃり、と卑猥な水音を立てて口内を蹂躙すれば、ぶるりと腕の中の存在が震えた。
初めての行為に怯えるように身を隠そうとする長い舌を絡ませ、強く吸い上げる。ぞくぞくと背筋から何かが這い上がる感覚。
それと同時に、腰の奥が、ずくりと疼いた。覚えのあるその感覚に、燐はどきりと胸を高鳴らせる。
―――どうして。
どうして、雪男相手に自分の身体が昂りを見せているのかがわからなかった。
実の弟なのだ!彼が、戯れに唇を奪って遊んでいるだけなのに、
自分の官能を刺激され、燐はかすかに身を捩る。
恥ずかしかった。こんなに密着していて、もしバレてしまったら―――?
また、馬鹿にされるかもしれない。
嫌だった。
ただでさえ、頭の出来が悪く散々馬鹿にされているのだ、もうこれ以上は真っ平だ。
いや、けれどそれ以上に、自分自身の身体が、浅ましくも欲望を露わにしていることを認めたくなかった。
燐にとって、すべてが初めての経験だった。
誰かに触れられて、無意識に身体が反応を返してしまうなど、
羞恥以外のなにものでもなかったのだ。
「っう―――、ゆ、きぉ、やめ・・・」
「ふ、ぁ・・・嫌、なの?・・・すっごい、気持ちよさそうに見えるけど」
「ぁ、」
雪男のいたずらな手が背後に回ったかと思うと、ぐっと尻を布越しから掴まれた。
まさか、尻を揉まれるだけで感じるとは思わなかった。指が食い込むほど強い力で引き寄せられて、
燐は自分の下肢の昂りを知られまいかと不安が募る。弟に欲情する兄、なんて情けないにもほどがある。・・・だというのに、
雪男はさも楽しそうにクスクスと笑いながら、自分を抱きしめ、離さない。
唇を解放した彼は、次には再び耳元へと戻り、長い舌を器用に動かして耳殻を舐め、
ついには耳のナカまで舌を侵入させてきた。やだ、と舌足らずな声音で訴えてみるものの、
全く効果がないどころか、かえって雪男の熱情を煽るだけだというのに、
燐は瞳を潤ませて、解放を哀願するものだから、雪男もまた、下肢の中心部に熱が集まるのを感じていた。
もう、止まらない。・・・止まれない。暴走を始めた身体は、密着している燐にも伝わり、
雪男のそれが硬さを帯びていることに気づいた瞬間、
燐は、信じられない、と言った風に、目を見開き、雪男を見つめた。
「っ・・・ぁ、雪男・・・?」
「さっき、兄さんが食べたい、って言ったその意味を教えてあげる。―――兄さんと、セックスしたいってコト。」
「うわ・・・!」
ドスン、と音がして、雪男は、燐を彼のベッドへと押し倒した。
困惑したままの燐は、背を強く打った痛みよりも、真近にせまった弟の真剣な眼差しに心を奪われている。
見れば見るほど、女の子にモテないはずもない理知的な顔だ。
そんな彼が、度重なるクラスの女子のアタックにも動じず、何度も断ってきたのを燐は思い出す。
あの時は、雪男は、“医者になる勉強も祓魔師の仕事も続けないといけないんだ、デートなんてしている暇なんかないよ”などと言っていたけれど。
こうして自分なんかに迫っている弟の姿に、燐はぐるぐると回転の遅い頭を必死に動かしていた。
「な・・・に、言ってんだよ、雪男・・・せ、せっくすってのは、女の子とするもんじゃねーのかよ・・・?」
「別に、相手が男だってできるけどね。ただ、男同士で、しかも双子兄弟でなんて、ちょっとおかしいのかもしれないけど」
「やっ・・・ゆ、きお・・・!」
一瞬だけ自嘲の笑みを浮かべた雪男は、けれど次の瞬間には予想だにしない状況に怯え、
じたばたと暴れ出す燐の両腕を掴み、そうしてシーツの波間に縫い止めていた。
そうして、再び塞がれる唇。いよいよ、雪男の言葉が本当に本当だと理解して、血の気が引くような恐怖を覚えると共に、
確かに胸の内にある期待感。自分でも、こんな気持ち、知らない、わからない。
ただただ、雪男の瞳の強い光に射抜かれるばかり。
固まる燐に、雪男はかすかな罪悪感を覚えながらも、それでも勝手に指先が動いた。
乱暴にベッドに押し倒されたせいで乱れた着衣を、その隙間から覗く肌を至極丁寧に辿っていき、
露わになったそれに唇を落とす。生温かく濡れた感触に、ぴくりと燐の身体が震えた。
「や、やだ、い、や・・・!」
「本当に?嫌?こんなことをされるのが嫌?それとも、僕にされるのが嫌?ねぇ、兄さん」
「っは、あ、ああっ!」
混乱したまま、抵抗を続ける燐の両脚を割って、雪男の足が入り込む。
そうして、雪男の膝が燐の下肢の中心部を探った。自分の身体の反応を知られたくなかったのに、
強引に開かれる両膝。布越しから与えられる、おざなりな刺激。
嫌か、と問われ、けれど燐には答えがわからなかった。
本当に嫌ならば、果たしてこんな反応をするのだろうか?雪男にキスをされた瞬間、ドクドクと高鳴った胸の鼓動。
唇を、名残惜しむようにして舐められた時、自分の身体は確かに欲望を感じたのだ。
異性との経験などまるでないが、そのくらいはわかる。
これでも、健全な15歳のつもりだった。
だが―――、
だからこそ、戸惑う。
自分は、いい。大切な弟のためならば、こんな事はどうってことない。
けれど、雪男は?
自分などより、至極真っ当に人生を歩んできたはずの雪男。
サタンの炎を継いでしまった自分のせいで、いたって普通の生活をしてきたとは言い難いけれど、
それでも、彼にはまだ人間としての未来がある。医者になるという夢だってあるのだ、
せめて彼くらいは、将来、素敵なお嫁さんを見つけて、幸せな結婚をして、苦労はあれどあたたかな家庭を作れるはずで。
だから、一時の衝動に任せて、彼に道を外させてはならないと思った。
そのためには、自分がこんなところで流されてしまってはダメなのだ。
「だ、ダメだ・・・駄目だっ、雪男!」
「・・・どうして?」
「だって・・・、お、前が、」
―――汚れる。
かすれた声で、そっぽを向いて、頬を紅潮させたまま、やっとのことで告げる燐に、
さらに雪男の心はぐらぐらと揺れた。
ああ、どうしてこの悪魔は。
こうまで、自分を無意識に煽るのだろう。駄目だと首を横に振って置きながら、その姿は自分を誘ってばかり。
これでは、止められるものも止められない。
燐が、欲しい。
この、純情で健気でどうしようもなく馬鹿で真っ直ぐな兄を、
どうしても自分のものにしてしまいたい。
「・・・・・・好きなんだ」
搾り出した声音は、どこか掠れていて、今にも消え入りそうな程小さかったが、
それでも、燐の耳に届くには十分だった。
「・・・え?」
「ずっと、好きだったんだ。小さい頃から、ずっと兄さんばかり見て生きてきた。
でも、告げるつもりなんかなかったのに・・・兄さんのせいだ」
そう、すべては燐のせい。
自分に、己を触らせることを許したから。近づくことを許したから。
自分が口を滑らせた本音を、健気にも受け止めてくれたから。
―――キスをしても、逃げなかったから。
雪男は、想いの丈のすべてを伝えるように、きつくきつく燐の身体を抱きしめた。
今となっては、自分よりも華奢になってしまった兄の身体。
それでも、いくつになっても、兄は自分の憧れだった。自分がどんなに努力したって、彼のようにはなれなかった。
真っ直ぐで、曲がったことが嫌いで、困っている人がいれば自分のことなど顧みずに手を伸ばす、
そんな正義感が強くなんでもこなしてしまう彼が。
大好きだった。
どんなに周囲に疎まれていても、絶対に弟には弱音を見せず、いつだって笑顔を絶やさなかった彼に、
どれほど救われてきたことか。
それこそ、祓魔師の修行がどれほど辛くても耐えられたのは、
ひとえに彼の存在があったからこそで。
そして、今も、その気持ちは変わってなどいない。
大切な大切な兄を守りたい。
いや、そんなのは建前で、本当の心は―――・・・・・・
「兄さんが、欲しかった」
「ゆ、きお・・・」
苦しげに告げる雪男の肩口が、震えていた。
それを肌で感じた燐は、信じられない、という表情を浮かべていたが、
それでも、なんとか、おずおずと両腕を雪男の広い背中に伸ばした。
そして、精一杯抱きしめる。
雪男の力がより一層腕にこもると、それに反応するように、燐の腕の力もまた強まる。
15年間、双子として生きてきたが、ここまで強い抱き合い方はしたことがなかっただろう。
まるで、分たれたものが一つになるような。
服越しからでもわかる、互いの鼓動。それは、同じ速度で脈打っていて、
更に想いが募っていく。
そうして、下肢の昂りも、また。
少しだけ燐が身を捩ると、重なる下肢が、互いの状態を如実に示し始めていた。
燐、と耳で囁いて、彼の掌を取り、自分の下肢に触れさせた。
どきりと跳ね上げる燐の身体。けれど、もう逃げ腰になることはなかった。だって、自分もまた、同じだったから。
雪男にキスをされて、好きだと、セックスしたいと告げられて、
どうしようもなく興奮したこの反応は、本当だったから。
あれほどまでに動揺していたくせに、逃げ出したいなどと考えられなかった理由は、
もはやひとつしかない。
「ゆきお・・・、雪男、おれも・・・、」
おれも、好きだ。
そう、肩口に顔を埋めて、消え入りそうな小さな声で呟く燐の声音に、雪男の鼓膜が震えた。
と同時に、胸の内から膨れ上がる歓喜の予感。信じられない、まさか、という思いも確かにあったが、
それをはるかに凌駕する感情。
雪男は、己の中の不安を吐き出すように、全身で触れる兄の存在を感じ続けた。
照れているのか、顔や肌を真っ赤にさせたまま、好きだとうわごとのように繰り返す燐に、
再び雪男もまた、彼の肌に唇を落とす。
今度は意思をもって触れ、その白い肌に痕を残すように吸い上げた。
悲鳴を上げてしがみつく燐は、ひどく可愛らしくて。
「兄さん・・・本当に、いいの?」
確かめるように問いかけると共に、丁寧に燐の下肢をなぞった。
それはもう、既に限界まで張り詰めていて、初めての行為の予感に震えている。
こく、と小さく頷いて許可を与える兄を抱きしめ、
再び雪男は燐の唇に己のそれを重ねたのだった。
end...?
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