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「名前。」


「・・・やっぱり、しっくり来ないな」
「?」

情事の後、月の煎れてきたコーヒーに更に角砂糖を足している竜崎に、
月は思わず呟いた。
素肌のまま毛布に包まり、熱いそれに息を吹きかけている男は、
ひどく幼く見えて、実は世界的に有名な存在。
彼の隣で、ベッドの背もたれに身を預け分厚い本を読んでいた月は、
くすりと笑って手の中のそれをぱたりと閉じた。

「なんのことです?」
「・・・いや、ね。竜崎、って名前がさ。もちろん、本名でないことはわかってるけど・・・」

似合わない呼び名だよな、と告げられ、竜崎はムッとしてしまった。
L、から連想できる名前としては、なかなか気に入っていただけに、笑われるのは癪である。

「・・・そういう月くんだって、ヘンな名前じゃないですか」
「僕はいいんだよ。僕自身が考えたわけでなし」

でも、竜崎は自分が考えた名前だろ?とからかう月に、けれど図星な竜崎は何もいえない。
唇を尖らせて、竜崎はもう1つ、ポチャリと砂糖をカップに落とした。

「・・・では、どういう名前なら納得するんです、月くんは」
「・・・そうだなぁ」

覗き込んでくる、月の瞳。
じっと見つめられ、なんだか恥ずかしくなった竜崎は、
思わず逃げるように毛布を掴んでしまった。
まるで、己の顔を見て本当の名を見透かそうとでもするかのようなその視線。
そうなのだ。
いつも忘れてしまうが、自分の中で既にこの男は、"キラ"なのだ。
ましてや、自分は"キラ"の最大の敵。彼がその気になれば、きっと自分は殺されているに違いない。
けれど、何故か彼はそんなそぶりさえ見せず、
それどころかひどく真摯に自分を見つめてくるのだ。1点の曇りもない、その瞳。
これでは、逆に自分が錯覚してしまうではないか。
本気で、愛されているのではないか、と。
だが勿論、竜崎にとってそれは望ましい事ではない。ますますキラを追いにくくするだけだ。
けれど、それでは、何故。
自分の胸は今、これほどまでに高鳴っているのだろう?

「・・・―――L、かな」
「・・・・・・そのままじゃないですか」

これほど長い間考えていた割に、まともな答えが返ってこなかったことに、
竜崎は更に唇を尖らせた。
月は、はは、と笑うと、毛布に包まる竜崎の身体を、毛布ごと引き寄せてくる。
誤魔化すようなそれに、竜崎は呆れたようにため息をついた。

「・・・月くん・・・」
「ごめんごめん。でも、僕にとって、やっぱり君は"L"なんだ」

竜崎の手の中のカップを奪い取る。
サイドテーブルに置かれてしまった、飲み損ねたそれを竜崎は片目で追いかけたが、

「・・・っ・・・」

指を絡め取られ、背後のシーツに押し付けられる。
そうして、文句を遮るように帰す。先ほどまでの熱がぶり返すかのような、
甘く丁寧なそれに、
竜崎は不覚にも溺れてしまった。散々解放したにも関わらず、下肢が熱くなるのを止められない。
それを月に気付かれたくなくて、毛布で隠そうと試みるものの、
それはあっけなく月の手によって引き剥がされ、
竜崎は再び男の目の前に全裸を晒す羽目になってしまったのだった。

「・・・L」
「・・・だから、ここでは竜崎、と・・・っ・・・」
「エル。」

だがその瞬間、竜崎の心がどくりと動いた。

(・・・っあ・・・)

眉根を寄せる。腰の奥から溢れる熱いものに耐えるように。
先ほどまでとは違う部分へ訴えかけてくる快感が、竜崎自身を襲ってくる。
戸惑いすら覚える程のそれに、竜崎が月の方を見やれば、
月は笑って愛撫を仕掛けてきた。

「っあ・・・、や、めっ・・・」
「イイだろ、エル・・・?」
「んあっ・・・、だからっ、竜崎と呼べと・・・!」

再び欲望を顕わにするように手のひらで扱かれ、竜崎はなす術もなかった。
ただでさえ乱暴といえる程の月の責めに、既に体力を使い果たしていたために、
力づくで彼を抑えるのもままならない。
竜崎は涙目で月を睨みつけた。鋭い眼光が、しかし快楽に歪んでいる。

「・・・月、くん・・・!」
「感じるだろ?『竜崎』より」
「っえ・・・」

竜崎は目を見開いた。と同時に、月の激しかった動きも止まる。
ゆっくりと、撫でるように愛撫され、竜崎の口元から今度は甘い吐息が零れてくる。
ゆったりとしたそれにも、目の裏が灼かれるような快楽に、
月は竜崎の顔を覗き込み、そうして笑った。

「竜崎。君は僕の前に現れた時、『L』と名乗ってくれたな。勿論その後、君が大学に潜入するために琉河と名乗っていて、更に捜査本部では竜崎、と呼ばせていることも知った。・・・だけど、それがどちらも"本当の名前"でない以上、僕の中で君は永遠に"L"なんだ。だって僕は、君が名乗り出てくる、もっと前から、君自身のことを意識していたんだからね」

「・・・・・月・・・、くん・・・」

嫌な、色だと思った。どうして彼は、こんな瞳ができるのだろう。
これは、演技なのだろうか?それとも、本気なのだろうか?
人を見る目はあると思っていた。だのに、この男の本心だけは、見透かすことが出来ない―――。
それどころか、自分まで引き込まれそうになる。まるで、魔法でもかけられているかのように。
竜崎は唇を噛んだ。
挑むように、月を見上げる。

「それは、キラの敵として、ですか」
「キラという未知の敵に恐れず立ち向かう、勇気ある存在として、だ」

(・・・・・・何故)

何故、そんな顔ができる?
竜崎は、再び重ねられる唇の感触に意識を奪われそうになりながら、
頭の片隅で思考を巡らせていた。

(・・・夜神・・・月・・・。本当に、キラ、ではないのか?)

「・・・っあ・・・!」

ぐちゃり、と音がして、下肢の奥に指が差し入れられたのを知った。
先ほどの行為のせいで、内部は月の精でぐちゃぐちゃだ。指で拡げられるだけで、溢れてくる体液。

「っや・・・、そこっ・・・!」
「エル・・・」

抱きかかえられ、逃げ出すこともできないまま後孔に、男の雄を感じた。
竜崎は息を呑んだ。瞬間、待ち望んだように収縮を繰り返す、彼の『入り口』。
既に何度も受け入れたために赤く腫れ上がっているそこは、
それでも侵入してくる凶暴な熱塊を、悦ぶかのように滑り込ませていく。

「あっ・・・ああ・・・!」

再び訪れた圧迫感に、竜崎は思わず声を上げていた。
内部の白濁した液体が、含み切れない内部から溢れてくる。
それは、竜崎にとってはひどく気持ちの悪いものだったが、月にとっては欲を煽るものでしかない。
月は指でそれを掬うと、竜崎自身に絡めるようにして扱き始めた。
視界が霞むような快楽に、竜崎の強靭なはずの理性すら崩れてしまう。

「・・・っい・・・あ、・・・んっ・・・!」
「イって、いいよ・・・」

もう既に出来上がった身体を快楽に酔わせるのは簡単で、
竜崎は月の言葉にコクコクと頷く。
月のそれが竜崎の胎内の弱い部分を擦り上げた時、
ひときわ高い声を上げて竜崎は仰け反った。ぐっ、と内部が締め付けられる感覚。
だが、限界なのはこちらも同じ。

「・・・っ、あ、ああ―――!!」
「・・・エル・・・っ・・・」

どくり、と全身の血流が煮えたぎるような瞬間。
月が竜崎の背を強く抱き締めてやると、竜崎もまた月の肩にしがみ付くようにして、
絶頂の瞬間を迎えていた。
内部に更に注がれる情欲の証と、そうして互いを濡らす精。
さすがに何度目かの行為で体力を削いだ2人は、
そのまま再びベッドに沈んでいった。
月に圧し掛かられながら、竜崎はふと視界にはいった、
先ほど自分が飲みかけていたコーヒーを思い出していた。
もう、既に湯気がなくなっている。猫舌ではあるが、ぬるいコーヒーというのもなかなか不味いと、
常々竜崎は思っている。

「・・・コーヒー、冷めちゃいましたよ」
「また煎れるさ」

そんなもの気にするなよ、と耳元で呟かれ、
竜崎ははぁ、とため息をつく。
エル、と囁かれ、再び抱き締めてくる彼の腕の中で、竜崎はくすぐったそうに身を捩った。

「・・・月くん。・・・その、やはり、Lはやめてください」
「ああ。わかってるよ、竜崎。」

父さんたちの前では、Lなんて呼ばないよ、と笑みを傾ける月に、
竜崎は閉口する。やはり、全然わかっていないではないか。
Lは、確かに自分を示すキーワードでしかない。
だが、何年も"L"の役割を担ってきた竜崎にとって、Lはもはや名前だった。
一番な身近なワタリですら、自分のことをLと呼ぶのだ。本当の名前など、あってないようなもの。
だから、竜崎は。
月にその名を呼ばれたとき、己の本当の名前を呼ばれた時のように、
ぞくりと背筋を這い上がるものを感じていたのだ。
琉河早樹でも、竜崎でもない、仮の姿でない本当の自分―――L。
月が、己自身を愛してくれているという、苦痛を伴う歓喜。
まったく、厄介な相手だ。
どうして、この男が、"キラ"なのだろう。
だというのに、どうして自分は、
この男がキラであってほしいと、心の底で願っているのだろう?
彼がキラでさえなければ、自分は、

―――彼に、己の本名すら、明かしたかもしれないのに。

「―――・・・・・・」
「どうした?」

ぼうっとする竜崎に、月がいぶかしげに覗き込む。
竜崎は我に返った。
首を振って、なんでもないと告げた。なにを、馬鹿なことを考えているのだろう。自分は。
己の真実を、―――己の本名を、明かしたいなどと。
だがそれは、相手誰であろうと、Lにとって最大のタブーとも言える事。
竜崎は己を軽蔑するかのように哂った。
ほんとうに馬鹿げている。
どうして、こんな。
こんな馬鹿のことを考えるようになってしまったのだろう。
すべては自分の心の弱さ故か、
それとも―――

(・・・夜神、月・・・・・・貴方がキラで、よかった・・・)

そうでなければ私は。
一番犯してはいけないタブーを、犯してしまいそうですからね―――・・・


end.


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