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「座る。」


静かな部屋に、機械音だけが響いていた。
皆が寝静まった深夜、キラ捜査本部のモニタルームに浮かぶ、2つの光。
時間も忘れてコンピュータと睨み合っていた月は、さすがに疲労を感じ、欠伸をかみ殺した。
時計はとうに2時を過ぎている。
何故こんな遅く、しかも竜崎と2人だけでこんな場所にいるかというと、
竜崎は単独で調べたいことがある、と言ったためだ。
当然、24時間共にすると言われ鎖にまで繋がれている以上、
互いの我侭に付き合う羽目になるのは日常茶飯事で、
月は、まぁ自分も引っかかってることがあるから、と彼の手伝いをすることになったのだが・・・―――

「おい、竜崎。頼まれてたデータ・・・」

反応は何もない。だが、鎖で繋がれている以上、いなくなるはずもない。
月は訝しげに竜崎を見やった。

「・・・・・・」

呆れてものも言えなかった。
隣には、例の無理な体勢のままぐっすりと眠りこけている男の姿。
先ほど自分から「調べたいことがあるので、付き合ってもらえますか?」と言ってきた男とは思えないそれに、
月ははぁ、とため息をついた。
かなり時間をかけて、彼が欲しがっていたデータ収集を手伝ってやっていたのだ、
眠い目を擦りながら行った仕事も、依頼主がこれでは報われないではないか。

「まったく、竜崎の奴・・・」

月はぼやいた。
今日の作業は、ここで切り上げだ。
再びコンピュータのモニたに向き直り、電源を落とす。
そうして、眠る竜崎を起こし、寝室へと戻ろうとして―――、
月の手が、止まった。

「・・・・・・」

竜崎は、ひどく気持ち良さげに眠っているようだった。
無理な体勢にも関わらず、腕を膝に乗せて、更に頭を傾けて、
こんな状態で眠るヤツなんて見たことがない。月は珍しげに竜崎を覗き込む。起きる気配はない。

(・・・ま、いいか)

起こしてやろうかと伸ばした腕を、引っ込める。
折角眠っている竜崎を起こしてしまうのは気が引けた。ただでさえ、ここ2日まともに睡眠がとれなかったのだから。
いくら強行軍には慣れているといっても、体力を消耗するのは当然だ。
自分に頼んでまでここに来たくせに、1人眠ってしまった竜崎に苦笑すると、
月は再びコンピュータを立ち上げ、そうして彼を見つめた。

「・・・やっぱり、ヘンな奴だよな・・・」

竜崎が深い眠りの中にいるのをいいことに、月は呟いた。
ただの浮いたようなおかしな青年。これが、まさかあの"L"だとは、誰も思わないだろう。
名乗られたって、信じる者は何人いることか。
だが、こうして目の前で生活を共にしていれば、信じざるを得ない。
この、傍若無人な顔で、この男は誰も考え付かないような推理をやってのけるのだ。
そうして、今回もまた―――。
あまりに早く自分をキラと睨み己を追ってきた竜崎に、
月は少しだけ憂鬱な気分になった。

夜神月がキラ―――。
竜崎がその推理を完全否定していない理由が、ここにある。
この、左腕にかかっている手錠。愛し合う者同士を繋ぐ絆と言えば聞こえはいいが、
要はこれは不信の表れだ。
竜崎は自分をキラと疑っている。そして、疑いが晴れない以上、自由にするわけにはいかない、と。
もちろん、月は竜崎がそう推理した訳も、それが完全否定できないことも知っているから、
文句は言わない。本当は、彼の傍に24時間いられることも嫌ではなかった。

(・・・―――だが)

自分のことは自分が一番よくわかっているつもりだ。
夜神月は、キラではない。
自分が殺したなど、有り得ない。確かに犯罪者、特に法の目を掻い潜り罪を逃れてきた犯罪者たちには、
憎しみすら覚えたこともある。だが、本当に殺したいなど、思ったことはないはずだ。
だが、もし―――
竜崎の推測するように、自分が記憶を失っているだけだったら?
殺した相手も殺した事実もすべて忘れ、
他人に罪を擦り付けるために意図的に竜崎との捜査に協力しているとしたら?

(・・・・・・。まさか、ね)

月は首を振った。
万一自分がその記憶を失っていたとしても、今考えてもどうしようもないことだ。
自覚も証拠もないものを、自分自身が不安に思っても仕方がない。
今の自分に出来ることは、
今、目の前で尚も犯罪者を裁き続ける男―キラ―を、
この手で捕まえ、そうして真実を知ることだ。
そのためには、多少辛くとも、竜崎―――Lと共に捜査を続けていくほかないのだから。

「・・・竜崎、力を貸してくれ。僕が、僕自身を信じられるために―――」

月は、再びコンピュータに向き直ると、
先ほど竜崎が頭を悩ませていたデータを表示させ、真剣に読み解き始めた。

時間は深夜、2時半を回り、耳が痛くなるような静けさ。
だがそれを遮るように、微かに聞こえてくる、寝息。もちろん、竜崎のものだ。
月は気にせず己の推理を続けようとしたが、
どう無視しようとしても聞こえてくるそれに、月は微かに顔を顰めた。
集中できない。
気になって仕方がないのだ。これが、もし竜崎でなければ、きっとこれほどまでに気になることはなかっただろう。
他の誰でもない、竜崎だからこそ。
月はまたしても大きくため息をついた。
今度は竜崎にではない、彼を気にしてしまう自分に対しての呆れ。

(・・・だめだ、集中しなくては)

首を振る。意識を逸らそうとして、
逆に竜崎のことが今以上に気になり始めてしまった。もしこのまま作業していては、
パソコンを打つ音で目覚めてしまったりしないか。
このままでは逆に身体が疲れてしまう、やはり寝室に連れて行くべきではないのか、と―――。
こんな注意力散漫では、何をやってもまともな推理はできないだろう。
月は諦めたように肩を落した。

「・・・それにしても、どうしてこんな格好で寝られるんだか・・・」

竜崎を見やれば、相変わらず身体を折り曲げたまま、身動きひとつせず眠りについている。
そもそもただ座っているときですら、こんなヘンな格好がよくできるな、と思う。
だが、竜崎に言わせると、これをしていなければ推理力40%減、なのだそうだ。
まったく、よくわからない男である。

(・・・推理力・・・40%減、ね・・・)

月はふと、竜崎の足元を見、そうして自分の足元を見やった。
今は、靴ははいていない。竜崎のように裸足ではないが、このままでもできそうだ。

「・・・・・・」

月は、ほとんど衝動的に片足を椅子に乗せてみた。
片足は、難なく椅子に乗せることができた。次は、もう片方だ。

「・・・・・・・・・っ、」

手をデスクにかけ、力を込める。多少身体がキツさを訴えたが、案外できないものでもなかった。
だが、これでは重心が後ろに傾きすぎて、PCが操作できる状態ではない。
普段の竜崎の状態を思い出し、腰をあげて膝を前に傾けてみる。
さすがにこの体勢はキツかった。肘掛けでもついているような安定感のある椅子でない限り、
慣れていなければバランスを保てないのではないか。
そう思いつつ、月は好奇心に駆られ、重心を前に倒してみた。けれど、

「・・・・・・、・・・・・・っ!!」

途端、ぐらり、と椅子が揺れた。
咄嗟に腕を伸ばし、デスクを掴もうとしたが、奇しくも数ミリの差で届かない。
まさかの状況に、いつも冷静な月の顔が驚愕に揺れる。
だがその次の瞬間、なす術もなく、
物凄い音を立てて、椅子が月ごと背後に倒れてしまったのだった。

「・・・、・・・何事ですか」
「・・・・・・・、いや・・・・・・」

月が倒れた音で、さすがに竜崎も目を覚ましたらしい。
大きな瞳を更に大きく見開いて、床に腰を打ち付けている月を見下ろしている。
月はズキズキと痛む腰をさすりながらも、
何食わぬ顔で身を起こし、そうして椅子を元に戻した。あまり、竜崎に顔を見られたくはなかった。

「そんなことより、竜崎。居眠りするくらいなら、休むぞ」
「・・・すいません・・・確かに今にもまた瞼が落ちそうです・・・」
「・・・・・・っお、っと」

ガク、と竜崎の頭が揺れると同時に、
ぐらり、と竜崎の身体が倒れ掛かる。今度は月の腕が彼の転倒を防いだ。
そのまま、抱き締める。寝起きで寝ぼけているのか、それとも単に眠気が意識の半分以上を占めているのか、
やけに素直な竜崎に月は正直ほっとする。

―――これなら、さっきのことを突っ込まれずにすみそうだ。

「じゃ、行こうか、竜崎」
「はい・・・」

今度こそ本当に電源を落とす。竜崎の分も、自分の分も。
深夜3時過ぎ、明るかったモニタールームにも漸く夜の闇が落ちる。
月は既に眠りの中にある竜崎を抱え、
寝室へと向かったのだった。



end.


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