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「Black Out vol.1」
琉河早樹―――竜崎に呼ばれ、月は彼の待つ部屋へと足を踏み入れた。
菓子が散乱しているのも相変わらずだ。広い室内に、高級なアンティーク、そして応接セット。
だがここは、ただのスィートルームではない。
竜崎のプライベートルームであると同時に、キラ捜査本部の最拠点。
そんな部屋の中央に、竜崎は"居"た。
テーブルの上に置かれたいくつものモニターとコンピュータ。目の前に座る、黒髪の青年。
「来たぞ、竜崎」
外はまだ肌寒く、月は勝手に上着をハンガーにかける。
反応がない竜崎に、また何かのデータに熱中しているのかと月が覗き込めば―――、
「・・・・・・」
竜崎は眠っていた。それも、相変わらずのあの格好で。
「・・・人を呼びつけておいて、勝手なヤツ・・・」
月はひどく落胆した。
大事な話がある、というから、大学帰り、急いで本部のホテルへ駆けつけたというのに。
竜崎の態度に呆れた月は、起こそうと彼の居るソファーへと近づき、
そして肩を叩こうとした。が―――
「・・・―――――」
月の目に映る、竜崎のPCモニタ。
そこには、竜崎でなくとも眠くなりそうな膨大な量のデータが表示されている。
そう、ここは捜査本部の中でも中枢を成す場所だ。3台のモニタと、そしてコンピュータ。
ならば、この竜崎のパソコンを調べることが出来れば、
彼ら―――Lを中心とした捜査の現状を知ることができるのではないか―――?
月はごくりと喉を鳴らした。
もちろん、こんなところで、彼のパソコンを弄ろうなど、浅はか過ぎる。
眠っているとはいえ、いつ目覚めるかもわからない彼の目の前で、彼の所有物に触れられるわけがない。
だが、そう理性ではわかっているのに、体は勝手に動いてしまう。
眠る彼の横の特等席に座ってみる。気配で目が覚めてもいいだろうに、
静かに寝息を立てて夢の世界にいる竜崎。
手を伸ばす。マウスにさわり、少しだけ動かしてみる。
自動開始していたスクリーンセーバーが消え、再び表示されるデータ。顔を近づけてそれを読もうとして、
「・・・っ・・・!」
いきなり腕に感じた圧迫感に、月は固まった。
見つかった―――。月の全身の血液が、一瞬にして凍りつくような感覚。
この状況をどう切り抜けようか、ぐるぐると思考を巡らせる月に、
しかし彼が恐れた最悪の状況が訪れることはなかった。
静かだった。
先ほどとなんら変わりない、まるで深夜のような静寂。
カーテンをすべて締め切り、ダウンライトしかつけていない状態では、そう錯覚してしまうのも当然だ。
月は今だ腕に感じる重さの正体を知ろうと、竜崎のほうを見た。
「・・・・・・」
乱暴に、退けることができなかった。
腕に在るのは、眠ったままの竜崎の頭。偶然傾いてしまった身体が、
月の肩と腕を支えに辛うじて体勢を保っている状態。
月は安堵の篭ったため息をついた。
彼を起こさぬよう、ゆっくりと彼の身を起こす。そのままでは不安定だろう、とソファーの背に身を預けさせて―――。
「・・・―――へぇ」
仰け反らせた拍子に、大きく開かれた首元から浮き出る鎖骨を目にした月は、
内心で口笛を吹いてしまった。
大学で見た時は、気付かなかった。ただただおかしな男だと、
そしてLと名乗られ警戒心が先に立っていたことも大きな要因のひとつ。
だが、今は違う。
裏があるにせよ、自分は彼の指揮する捜査本部にまで関わるようになった。
加えて、建前にせよ、自分は竜崎―――琉河早樹の友人。
更に、今は。
これほどまで無防備に、彼は己に自らを預けてくれているではないか。
「・・・竜崎。なかなかお前のこんな姿、見られないだろうな?」
反応のない男を覗き込み、
月は笑った。これはなかなか、面白いかもしれない。
それに、この男は前に、こう言ったではないか。「月くんは初めての友達です」と。
決して信じているわけではない。あの白々しさで、本心と思える方がおかしい。
だが、彼は口にしてしまった。嘘であれ、出任せであれ、
口にした以上、それは己自身を縛ることに繋がる。
ならば―――。
「・・・―――っ・・・」
唇を重ねてみると、予想通り蜂蜜の様な甘さが口内に広がった。
それと同時に、湧き起こる優越感。
今まで一度も世間に顔を出してこなかったL。
無論、Lであることを隠し、外界に出てきたことがないとは月も思わない。
だが、自分は彼を"L"だと知っている。
なおかつ、ここまで触れ合える位置に居るのだ。
暗い欲望が鎌首をもたげるのを、月は感じた。
「・・・っ・・・はっ・・・、何・・・!?」
さすがの竜崎も目を覚ましたらしい。
月の乗り上げる体勢に驚き、唇を塞がれているこの状況に驚き、
竜崎は一瞬にして覚醒した。
こんな事に慣れていないからか、それとも不意打ちが許せなかったのか、
強く腕で押し戻してくる。そんな抵抗も、今の月には欲を煽るものでしかない。
どれほど一般とかけ離れた、おかしな所のある天才でも、
こんな時は至って普通の女のような反応を見せる竜崎がどこか可笑しかった。
月は唇を離してやった。
強姦したいわけじゃない。あくまで同意に持っていくのが、
夜神月流の流儀。
「・・・目が、覚めた?」
「・・・・・・、・・・・・・」
竜崎のキツい視線に、けれど月は何食わぬ顔でそう告げた。
だが、竜崎はそんな月に恐怖を覚えたのか、ソファーの端に後辞さり、そして再び月を睨みつける。
手の甲で口元をぬぐえば、ひどく濡れた甘い唇。
「・・・呆れましたね」
「何が?」
「こんな趣味があったんですか」
明らかな侮蔑の瞳。だが、逆に月は笑みを浮かべる。
そうではなくとは面白くない。
「どうかな。とりあえず僕は、君に興味があった。君をよく知りたいと思っていたその矢先に、無防備に寝こけている君に出会った。欲情しても当然、のシチュエーションじゃないか?」
努めて真摯に、竜崎の瞳を見つめる。
だが、彼も負けてはいない。くだらない、と首を振る竜崎に、
月は彼の近くに身を寄せた。指を絡める。竜崎は脅えたような瞳を必死に隠そうとする。
月は喉の奥で笑った。
「竜崎。今の君の気持ちを、僕が推理してあげようか」
「・・・私の今の望みは、貴方が今すぐこの部屋から出て行ってくれることです」
「違うね」
トンッと、竜崎の胸の辺りを人差し指で叩く。
その表情はひどく自信ありげで、竜崎は不審げに月を見上げた。
背後に手をやり、いつでも人を呼べるように構えて。
「君は今、キラだと疑っている僕に迫られて脅えている。だがその一方で、この状況に悦んでいる自分を拭い去れない」
「なっ・・・何を、根拠に」
冷静に見せているが、明らかに動揺の走る揺らいだ瞳。
―――ビンゴだ。
月はますます笑みを深くする。
竜崎は本気で人を呼ぼうかと月に見えない位置で手を伸ばす。
ソファーの裏側にある緊急アラームのボタンに指先が触れる。力を込めようとした瞬間、
「―――っ」
「逃げるなよ、竜崎。己の本当の心から―――」
ぐっ、と掴まれる左手首。
あと一歩のところで己の逃げ道を塞がれ、いよいよ竜崎は本気で月を睨みつけた。
普段のどこか呆けたような瞳ではない、
見たこともない、強い意思を秘めた漆黒の色の瞳。
「これ以上、私を侮辱する気なら、容赦しませんよ」
「侮辱?心外だな。そういう君のほうこそ、僕の本気をただ交わしているだけじゃないか」
それがどんなに失礼なことか、わかるか?
そう、耳元で囁かれ、竜崎はあまりの怒りに我を忘れた。
組み敷かれている格好のまま、足を蹴り上げる。
月を渾身の力で突き飛ばそうとして、けれど思いのほか、月の抱き締めてくる腕の力が強くて。
「―――竜崎。・・・好きだ」
「・・・っ何、を・・・」
「愛している」
予想だにしない言葉。この男は、本気で言っているのだろうか?
探るように彼の瞳を見上げる。
だが、暗く濁ったようなその瞳は、何も映さない。見透かせない。ただそこで、
己を見透かすような光があるだけだ。
「・・・私はっ、あなたに興味などな・・・っ!」
「―――ずっと、見ていたのに?」
はっと、月を見る。
謎めいた言葉を吐く彼に、竜崎は眉を潜めた。
そう、この男は"キラ"かもしれない男だのだ。もし、あの監視カメラに気付いていたら?
この男は、暗にそのことを指しているのではないのか。
「わざわざ接触してまで、僕をキラと疑っていることを告げた。ということは、竜崎―――いや、L。お前は、その何ヶ月も前から、きっと僕を睨んでいたんだろう?疑いをかけた相手にいきなり接触するなんて、Lらしくないからな」
「そ、れは・・・」
取り繕う余裕すらなくなりかけている竜崎に、月は触れるほどに顔を近づけて、笑う。
図星だった。悔しいけれど、彼の推理はすべてにおいて完璧だった。
日本にきて、FBIが犠牲になって。
あれから数ヶ月。ずっと、この男―――夜神月を疑ってきた。
たった1%に過ぎない可能性。
だが、己の探偵としての本能が、告げていたのだ。
監視カメラをつけ、どれほど彼がキラである可能性が失われても、
それでも諦めきれなかった。
だから、ここまで来た。己自身の目で、夜神月という男を見極めるために。
―――興味がなかったといえば、嘘になる。
「・・・竜崎。素直になれよ。僕のことが知りたいんだろう?」
「っ・・・こんなことで、あなたの何がわかると・・・っ」
くすり、と笑われ、それからぐっと背を抱き締められた。
そのまま、乾いた唇に、触れるようにゆっくりとキス。逃れられないそれに、
竜崎は嫌だ、と月の胸元のシャツを握り締める。
だが、そんな抵抗は月には通じない。合意どころかほとんど彼の強引な態度で己が組み敷かれていることに、
竜崎は苦しげに眉を寄せた。
こんな関係、望むはずがなかった。第一、何の意味があるのだろう?
相手は、己が必ず死刑台に送るといった、"キラ"かもしれない男。
いや、その可能性のほうが高いくらいだ。
そんな彼と、どうして情を結ぶ必要があるのだろう?
流されればそれこそ、一巻の終わりだ。
竜崎はぎゅ、と瞳を閉じた。
せめて、流れされまいと心に誓った。たとえ身体が奪われても、
心だけは譲らないと。
抵抗をやめた竜崎に、月は再び口の端を持ち上げた。
―――堕ちたな。
身体さえ手に入れば、あとは時間の問題だ。
楽しませてもらうよ、竜崎。いや、L。
月は、竜崎が瞳を閉じているのをいいことに、乾いた唇を舌で湿らせ、
そうして今度こそしっかりと彼の身体を押さえつけた。
ソファーといっても、ここは高級ホテル。
広く、長いそれは、ベッドほどではないがセックスには困らない。
いとも簡単に彼のトレーナーを脱がせてしまうと、月は顕わになった肌に口づけ始めた。
予想通り、それはぬめったような白色で、そそるような滑らかさを持っていた。
―――上物だ。
月は勝手な確信の元、唇を歪ませる。
この男がどんな声を上げるのか、楽しみでならなかった。
竜崎の引き結んだ口元を、月は指先で無理矢理に開かせた。
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