女性向二次創作サイト
星蒼圏 - 保管庫モバイル
侵蝕 vol.1
輝かしいフェイスのマークを胸に着けた、群青の髪に翡翠の瞳を持つその青年は、
アスラン・ザラといった。
元クルーゼ隊所属、ザフトレッド。
先の大戦で国防委員会直属に名を連ねてからは、父であるパトリック・ザラと相対し、
その意見の相違から道を違えた。要は軍を裏切り、彼の幼い頃からの親友と共に戦争を終わらせるために尽力した。
そして、今また。
現プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルの意志を受け、
過去、決別したはずの軍服にもう一度腕を通し、そして前線の指揮官として先陣に立っている。
「アスラン・・・、ザラ」
レイは幾分低まった声で彼の名を呟いた。
ミネルバの回廊で彼の姿を見たとき、知らないうちに足が動いてしまっていた。
彼を、追った。幾分、急ぎ足で、見失わぬように。
さらりとした髪を揺らす青年は、そのまま外の、デッキに出る。
浮かない顔。
それも、当然だろう。
先日の戦闘で出撃した青年は、
その愛機"セイバー"を、彼の親友―――"フリーダム"の手によって、いとも簡単に、一瞬にして、破壊されたのだから。
ザフトに復帰してしまった彼と、平和を望み独自の道を歩む"彼"。
ならば当然、彼らが戦場で出会えば、"敵"となる。
そう、かつて、壮絶な戦いを繰り広げた、
地球軍だった友と、ザフト軍のパイロットだった彼自身のように。
「こんな所に、いたんですか」
「・・・!・・・っ・・・レイ・・・」
普段は寡黙を通すレイの掛けた言葉に、
アスラン・ザラは驚いたように声を掛けられたほうを振り向いた。
一人になりたくて、敢えて甲板の裏に回っていた。それなのに、同僚の彼に見つかってしまったことに、
青年は少しだけ気を落としたように瞳を揺らした。
もちろん、レイは咎めない。当たり前だ。彼の心は、手に取るようによくわかるのだから。
無防備な表情を見せたことに気付いたのだろう、
アスランはすぐにいつものポーカーフェイスを取り戻し、上官としての顔でレイを見た。
「・・・ああ、すまない、なにか用かな」
「いいえ、何も。ただ、見たかっただけです。―――私も。」
海を、とだけ言葉を紡いで、レイはデッキに歩んだ。
同じように、海を眺めていた青年の、隣に来る。アスランは動かなかった。ただ、そんなレイを見ていた。
暇さえあれば射撃訓練やMSの整備を怠らない、生真面目な軍人。
そんな印象の彼が、自分の隣で海を眺めている。
さらりとした金糸を風に靡かせて。
珍しいこともあるものだ、とそのまましばらく彼のほうを見ていたアスランは、
やがて少しだけ笑みを浮かべ、視線を海に戻した。
ひとりになりたくて、ここを選んだけれど。
彼がいることで、この空気が嫌いになれるほど、青年にとってレイの存在が迷惑だったわけではない気がしたから。
海の、そのまた向こうにいるはずの、オーブと、そしてアークエンジェル。
それは、アスランにとって大切な、そして一番守りたいものだったはず。
だというのに、彼らを、ひいては世界を争いの渦から守りたい一心で、軍に復帰した自分と、
なおもザフトを敵とする、地球連合軍に組してしまった、オーブ。
これでは明らかに、"敵同士"だ。
守りたかったのに、そのときにはもう遅く、
陣営を違えた今、できることは、互いがぶつからぬことを祈るのみ。
そうして。
悪夢の日は、現実になった。
「・・・何を、考えてます?」
唐突なレイの声に、アスランはハッと彼のほうを見た。
現実に、一瞬にして引き戻された気分だった。
そう、ここは。
ザフトの船で、自分はザフトで、敵は連合なのだ。
既に敵となったものを今も想ってしまう心は、自分の弱さ故なのか。それとも。
「お辛いですね」
言葉短かに告げられるそれに、アスランは戸惑った。
知らない・・・はずは、確かになかった。自分が、かつての大戦で、アークエンジェルと共に戦い、
そして戦争を終わらせるべくジャスティスを駆りジェネシスを止めたことは、
有名な話だ。ましてや、彼は自分の後輩の、ザフトレッド。
知らないはずがない。
そして、察しのいい彼ならば、自分が何を悩み、苦しんでいるかということも、すべて見抜かされている気がする。
「・・・レイ」
「隊長・・・いえ、アスランは、なぜ、ザフトに復帰なされたのですか?」
アスラン、と呼ばれ、なぜかデジャヴを感じた。
ここではない、どこか。―――誰か。けれど、その記憶は漠然としていて、追いかけようとしても見失うばかり。
なぜ、と問われ、アスランは心持ち視線を足元に落としていた。
反芻するのは、デュランダル議長の、あの言葉。
―――君に、これを託したい
「復帰さえなさらなければ、あのまま、オーブの姫の元にいられたでしょうに。
守りたかったのではなかったのですか?・・・彼女を」
問い詰めるわけでもなく、かといって慰めようというのでもなく。
淡々とした、相変らずの読めない表情で言葉を紡ぐ少年に、アスランは逆に口を噤んでしまう。
彼の言葉が、もっとも過ぎて。
そう、彼女を守りたかった。彼女だけではなく、オーブも、そこに住む親友も、守りたかった。
けれど。
―――違う。俺は―――
守りたかった。彼女も、友人も、オーブも、そして、
世界も。
今、再び二分されようとしている世界を、止めたかった。
その原因が、自分の父に関わることだったからこそ、なおさら。
だから、自分は。
「皮肉なものですね。彼の人も平和を望み、貴方もまた。だというのに、戦場では敵対する。
そして、貴方のかつての友でも、今敵ならば、私たちは討たねばならない。敵で、ある限り・・・何度でも」
レイの言葉に、アスランは無言でぐっと拳を握り締めた。
彼の言葉は、真実だ。軍人である以上、敵である者へ向ける感情は、愚かなだけ。
よくわかっている、はずだった。
かつて、同じような立場にいた自分には、本当によく。
―――皮肉なものだな
「あ・・・」
嫌な、・・・本当に嫌な声音が、耳の奥で鳴った気がした。
ただ動揺し、心を揺らし、声が届かないことに焦れ、誰にも頼れず、ただ孤独だった頃の自分を、
思い起こさせるようなあの声音。
アスランは咄嗟に胸を押さえた。己の弱く脆い感情が、溢れ出してしまいそうで。
だが、一度思い出してしまった記憶は、止まらなかった。
先の戦闘で、声が届かなかった相手。
かつての、友。
あの頃も、同じように説得をした。そうして、・・・届かなかった。
―――君のかつての友でも、今敵ならば、我らは討たねばならん。それは、わかってもらえると思うが・・・
「っ・・・」
「アスラン?」
「―――しばらく、一人にしてくれないか・・・」
ふらり、と立ち去る背を、レイはただ見送った。
今、彼を刺し過ぎるのはあまりいいことではない。不信は、戦いへの心を揺らがせる。
それではまずいのだ。彼は、―――駒。優秀で、強く、今のザフトでは、彼に叶う者などいない程の。
だから、今不信感を抱かれてもまずい。
かといって、"敵"である者に心を掛け、先の戦闘のように何の意味もない戦い方をされても困る。
そこまで考えて、レイはスッと口元に笑みを浮かべた。
傍から見てもわからないほどの変化だった。だが、周囲の空気がわずかに変わった。
アスラン・ザラ。
元、クルーゼ隊所属。アカデミーを首席で卒業し、トップガンとして名を馳せたザフトレッド。
そうして、もう一つ。
「・・・私を、忘れてしまわれるとはね」
幾分、低まった声音で、レイはそっと呟いた。
喉を押さえる。口の端を、持ち上げて。
アスランの、デジャヴの原因。それを、レイはもちろん知っていた。
彼が思い出したであろう、残酷な言葉。それを、敢えて思い出させた。彼を、思い通りに動かす為に。
かつて彼が囚われていた袋小路に、今もまた、彼を閉じ込めるために。
「もう一度、思い出させてあげますよ、アスラン。・・・この俺がね」
少年は、彼の出ていったドアを見つめ、呟いた。
...to be contined.
侵蝕 vol.2
その言葉を聞いたのは、今は遠い過去のことだ。
『血のバレンタイン』によって母親を失い、自分も何かしなければ、と思い、選んだ"軍人"の道。
守れなかった自分が嫌だった。無力な自分が嫌で、力が欲しいと思った。
そうして、かつて守れなかったプラントを守るために、
前線に出、戦った。
あの時も、確かに戦争が嫌いだった。けれど、嫌いだからといって、その権利も踏みにじられ、見下され、あまつさえその強大な力によって失われた同胞たちを見てなお、
嫌いだ、反対だ、戦ってはいけない、など言えるはずもない。
なぜならば、相手は、理不尽で、話し合いのテーブルにすらまともに着こうとはせず、
コーディネイターを忌み嫌う、ブルーコスモスが主体の軍なのだから。
下手に出れば、殺される。これは事実だ。
戦うのは必然で、当然のことだった。人間としてのプライドを持つ者ならば、誰もがそう思ってしかるべきなのだ。
だから、なんの苦しみも、迷いもなかった。
あの、かつての友―――、キラ・ヤマトに出会う、その時までは。
「キラ・・・」
自室のベッドにうつぶせたアスランは、枕に顔を埋めたまま、親友の名を呟いた。
あの時も、今と同じ。
どれほど深く心を通わせていようと、立場の違いは明確で。
ザフト軍と、地球軍。敵同士。敵。
敵であれば、討たねばならない。軍人である以上、しごく当然のことで、アスランもまた、当然のように認識していたはずの事実。
だというのに、実際、目の前に立ちはだかる友に、銃を向けるなどできず。
・・・弱い、と思った。
大義のために、己を捨て切れない自分を。
かつての友。だが今は敵。それならば討つまで。個人的な事情より、大義が優先されるのは当たり前のことで、
だからこそアスランは友を討たねばならなかった。
それなのに、討たねばならないとわかっていて、その銃を持つ手は震え、照準は鈍る。
勿論同僚は、それを責め立てた。
わかっている。だからこそ、・・・何も言えなかった。
かつての友が、敵艦にいて、そのせいで腕が鈍った、など。
誰にも言えない、心。
幾度も、忘れようと思った。けれど、忘れられなかった。
そんな戸惑いが、自らの死に繋がることくらい、承知の上だったのに。
―――君のかつての友でも、今敵ならば、我らは討たねばならん。それは、わかってもらえると思うが・・・
「っ・・・」
再度、頭の奥に響いた言葉に、アスランは手で顔を覆った。
言われたのは、かつての上官からだ。
唯一、友のことを打ち明けた相手。冷たい仮面をつけた、冷徹な軍人だった。
だが、その戦績は類を見ないほどに素晴らしいもので、MSパイロットなら誰もが憧れるような、そんな彼に、
自分は、言われたのだ。
かつての友でも、敵は敵なのだと。それならば、討つほかにないと。
残酷な、言葉。
だが、事実だった。どうしようもないほどに。
だからこそ、苦しかった。今と同じように。誰にも言えずに、ただ耐えるしかない孤独。
そんな時、唯一自分の心を気に掛けてくれた存在が、"彼"だった。
「・・・隊長・・・」
心から信頼していた、有能な上官。
取り乱すことのない冷静さと、誰よりも正確な判断力を持ち合わせた彼の言葉は、
それが残酷であればあるほど、アスランを苦しめた。
けれど、その一方で、彼は優しかった。
友を討ちたくない、とは言えない自分に、ならば任務から外そう、私もそんなことはさせたくない、と、
そう言ってくれた彼。
それは些細な気遣いだったが、それでも、
孤独に苦しむ自分には、あまりに優しく耳に響いた。
説得したいという言葉を受け入れ、そして結局説得などできず、連れてさえこれなかった。
言葉が届かないことが痛くて、泣いた。それを、彼は黙って許してくれた。
―――辛いな、アスラン
けれど、今は、彼はいない。
あの大戦で、彼は死んでしまった。
最後まで、その立場を曲げずに、ザフトで、あくまで軍人として。
彼の隊から転属になってしまってから、一度も会うことはなくなってしまったけれど。
親友が戦ったことは、手短かには聞いていた。けれど、
でも、本当に、
直接、敵対しなくてよかったと思う。
絶対自分は、また躊躇ってしまうだろうから。
不意に、ピピッと、来客を告げる電子音が鳴った。
『レイ・ザ・バレルです。よろしいでしょうか』
「・・・レイ・・・?」
あまりに唐突な、しかも想像すらできなかった相手の来訪に、
アスランはバッと身を起こした。
応対をしようとして、先ほどのデッキでのことを思い出す。自分の心を、的確に突いてきた、彼。
「なにか、用でも?」
「はい。ですが、ここでは・・・。夜も遅いですし」
暗に、中へ入れてくれと告げるレイに、
しかしアスランは戸惑ったように、手をドアの開閉ボタンの周囲に彷徨わせた。
こんな、心が不安定な時に。
1人でいたかった。再びあの孤独の時を味わい、苦しむ自分は、
きっといつもの上官の顔をしていられないだろう。
いや、違う。
そんな理由で、レイを拒もうとしているわけではなかった。
(俺は・・・怖いのか・・・?)
彼に、見透かされることが?
美しい、青の瞳。金の髪。思い出されるのは、あの―――、かつての、自分の上官。けれど。
馬鹿なことだ。アスランは首を振った。
―――くだらない。
青の瞳に金の髪など、いくらでもいる組み合わせだ。
それをいちいち彼の存在に重ねていては、心が持たない。
それに、なぜ。
2年も年下の男に、
自分が怖がらねばならないというのだろう。
やましいことなどないはずだ。―――そう、何も。
「ああ、すまない。―――今、開けるよ」
シュッ、と音がして、アスランはドアを開けた。目の前には、至って真面目な顔をしたレイが立っていた。
軽く礼をして、遠慮なく身体を滑り込ませる少年に、多少違和感を感じはしたが、
もちろん、通路での問答も迷惑になるだけだ。
再びシュッ、と背後で音が鳴った。自動ロックのドアは、完全に閉鎖される。
沈んだ心のまま、中途半端にしかつけていなかった明かりを、アスランはすぐに灯した。
「ありがとうございます」
「どうしたんだ?・・・用、というのは」
アスランは率直に尋ねた。
今までの彼の行動を見る限り、遠まわしな表現を嫌うようなタイプだったし、
単刀直入に聞いたほうが、早く終わると思ったから。
なぜか逃げ腰な自分がおかしかったが、それを表に出すほど、アスランは子供ではない。
「別に、大したことではありません。・・・先ほどの貴方が、気になって」
「先ほどの・・・?あれは・・・」
動揺してしまったことに、舌打ちした。
今更だが、どうしてあんな姿を見せてしまったのだろう、と思う。
ポーカーフェイスには慣れていた。一応、このミネルバでは、上官であり、フェイスなのだから。
強くあらねばならない。それは彼に課せられた、義務。
「すみませんでした。貴方の痛いところを突いてしまって・・・」
「いや・・・、事実だからね。仕方がないよ」
だからアスランは、敢えて自分すら傷つくことを、口にした。
そう、冷静になって考えれば、当然のことなのだ。敵である限り、誰であろうと討たねばならない。
それが、軍だ。守るべきもののために、それを害するものたちを討つ。
今は、自分には仲間がいるのだ。心を同じくして、同一の敵を討つ、仲間が。
ならば、例え敵がかつての友でも、身勝手な行動などできるはずもない。
・・・だが、それでは。
何故自分は、こんなところに立っているのだろう。
「・・・・・・俺は、何をしているんだろうな・・・」
「・・・アスラン?」
ふと呟いた声音を掬われて、アスランは顔を上げた。
少しだけ、自嘲の笑みを浮かべた。今は、たった2人だけ。それも、相手はレイで、
先ほど自分を傷つけたのではと、謝りにきてくれた少年なのだ。
彼には少しだけ、話せるような気がした。
「君の言うとおり、守りたかった。オーブだけじゃない、プラントも、地球も。それなのに・・・」
「貴方が気を病む必要はありません」
「・・・レイ」
「貴方がザフトに復帰されたとき、オーブはまだ中立でした。先走り、地球軍に組してしまったのは、オーブです。率先して、貴方の敵となったのは」
真摯な瞳の色。
まっすぐな瞳に気圧されるように、アスランは彼の言葉を聞いていた。
彼は、どうしてこんな言葉を自分にかけてくれるのだろう?それだけが、不思議でならない。
「ですから、貴方が苦しむ必要などない。貴方はオーブを見、プラントを見て、道を決めた。世界の平和を目指すために。・・・そうでしょう?」
「・・・・・・」
少年の言葉は、アスランの胸にひどく甘く響いた。
己を責めるのはやめろと、仕方がないことだと、意味のないことだと。
貴方は間違っていないのだと、そう告げるレイに、アスランは思わず引き込まれそうになり、慌てて首を振る。
いけないはずだ、それでは。それでは、なんの解決にもならない。
変わらない。前の、自分と。
だが、敵ではないはずの相手、しかしその相手に言葉は届かず、
だからといって、己が己で考え、決めた信念が間違っていたと、そう簡単に思えるはずもなく。
レイは、それを肯定してきた。
甘い、言葉。
それは誘惑だった。孤独で、誰も己の苦しみを理解しようとはしない今、
唯一、そんな自分を労わるような言葉に、
―――縋りたい。
弱く不安定な心が、ひどく揺れた。
まともに答えることもできず、俯くアスランに、レイはそっと口の端を歪ませる。
だがそれは、悪夢の始まりだった。
抜け出せない袋小路に、泥沼に嵌り込んでしまった彼をひっそりと哂う少年は、勝ち誇ったような瞳の色を宿し、
俯く青年に近づいた。
「・・・アスラン」
「っえ・・・」
幾分低まった声音に何故か戸惑うアスランの腕を、レイは強く引き寄せた。
驚き、見開かれたその翡翠の色を捕え、そのまま唇を重ねる。
唐突だった。考えもしなかった少年の行動に、アスランはそのまま身体を硬くしてしまっていた。
思考が追いつかない。逃げることも、突き飛ばすこともできなかった。
それほどに、強く掴まれていた。逃れようとすれば、逃れられたはずなのに。
「っ・・・ふ、う・・・っ!」
「甘いですね・・・貴方の、唇は・・・」
「っ、やめ・・・!」
角度を変えられる合間にくすりと笑われて、途端背筋が冷えた。
逃れようと、腕に力を込める。反動をつけて彼を突き飛ばそうとして、
逆に背後に押し倒されてしまった。
個室とはいえ、艦内の部屋は狭く、背後すぐにベッドがあった。今ほど、それが恨めしいと思ったことはないだろう。
「っ、レイっ!!!」
「叫ばないでください。誰かにこんなところを見られたくないでしょう?」
「い・・・!!」
有無を言わさずに、レイはアスランの軍服を剥ぎ取った。
かなり乱暴に脱がされたそれは、びりりと音を立てていた。破れた衣服を、無造作にベッドの下に放る。
「何故、こんなことっ・・・」
「何故?」
ひどく動揺した声を上げるアスランに、レイは鼻で笑った。
シーツに押し付けた身体に、乗り上げる。脅えた色の瞳に、少年は手をかける。
うっすらと水を湛えたそれに、親指でそっと触れてやる。青年はハッと目を見開いた。
過去、同じように触れられ、涙を拭われた、あの記憶。長い長い、本当に長い間、ずっと胸の奥に閉じ込めていた感情が、引きずり出されるようだった。
「や、めろ・・・」
こんな年下の、部下ともいえる少年に、かつての上官を重ねそうになり、
そんな自分に嫌気が差した。
馬鹿げたことだ。本当に。どうして、これほどまでに弱くなってしまったのだろう、自分は。
ふがいない己に唇を噛み締める青年に、
しかしレイはただ、彼にとって絶望的な言葉だけを紡いだ。彼の、逃げ道を塞ぐために。
「慰めて、欲しかったのでしょう?」
「っな・・・」
絶句するアスランに、なおも言い募る。
「貴方の瞳が、いえ、全身が訴えてますよ。孤独は辛いと、理解されないのが苦しいと、寂しいと。・・・気付いてなかったんですか?」
「っ、う・・・!!」
唐突に握り込まれたそれの痛みに、アスランは顔を歪めた。
服越しからでもはっきりとわかる熱に、逆に本人のほうが驚き、そして認めたくない、といったように顔を背ける。
ただの同僚で、知り合って間もない程度の相手。それも、ほとんど言葉を交わすこともなかったような彼に、
ただ一度、労わるような声音をかけられただけだったというのに、
なぜこんな反応を示しているのか。
それも、今、こうして無理矢理押さえつけられて。
これでは、ただの屈辱だ。
合意でもない関係を、一時の感情で結ぶような自分ではない。断じて許すつもりなどなかったのに―――
頑なに己を拒むアスランに、レイはその柳眉を軽く顰めた。
潤んだ翡翠の色の瞳に、脅えたような光。そんなものを見せ付けられて、こちらが引いてくれると本気で思っているのだろうか、この青年は。
逆に、征服欲をそそられ、どこまでも組み臥せてやりたいと思ってしまう。
それに、レイにはもう1つ、彼を屈服させたい理由があった。
彼のかつての上官、ラウ・ル・クルーゼ。その彼の声も、姿も、彼のクローンである自分はすべてを受け継いでいる。
だというのに、幾度となく顔を会わせていながら、青年はそれに気付かないでいるのだ。
あれほど、かの存在と深い関係にあったはずの青年が、
彼の死後、その記憶も忘れ、自分に彼の面影を見ることもなく、のうのうとザフトに復帰しているなど、
あまつさえ同じ「隊長」と呼ばれる地位についているなど、
断じて許せなかった。
彼の中で忘れ去られているあの記憶を、思い出させてやりたい。無理矢理にでも引きずり出して、そして。
「・・・っあ、やめ、ろっ・・・!」
「全く、素直でない・・・。私にくらい、心を開いてくれても、いいと思うのですがね」
「ふざけるなっ!!俺は・・・、俺は、こんなこと・・・っ」
次の瞬間、
時が、止まった気がした。
「私を・・・、この私を忘れるとは、いい身分だな、アスラン・ザラ」
「な・・・」
目の前が、ブラックアウトした。
夢にも思わぬ衝撃に、アスランは動けない。気付いたときには、少年の手によって目隠しをされ、視界を奪われていた。
少年の手で、ぐるりと身体を反転させられる。勢いで下肢の衣服も全て剥がされてしまいながら、
それでもアスランはただ、頭を殴られた衝撃に全神経を集中してしまっていた。
「・・・その、声は・・・っ」
言葉を紡ぐアスランの唇が、震えた。
今、耳を打つその声音は、明らかにかの存在のものだった。
自分から良かれと、彼の前に身を晒してしまった相手。孤独に耐え切れず、立場も弁えずに縋ってしまった、あの頃の自分。
だが、すべて過去の話だ。―――過去の話のはずだ。
"あの人"はもう、いないのだから。
「・・・っクルーゼ、隊長・・・」
その言葉に、レイは少しだけ、押さえつけていた腕の力を緩めてやった。
名を口にして、とうとう抑えきれなくなった感情が、両の瞳から溢れ出る。アスランは混乱した頭の中で、
かつての、孤独だった頃の自分を思い出していた。
(隊長・・・)
あの時もこうして、白いシーツの上に突っ伏して、胸を高鳴らせていた。
相手は、神にも等しい、絶対の存在。彼の命令ならば、たとえどんな危険が伴うものでも、屈辱でも、誰もが躊躇わずにその命に従うだろう。彼への信頼は、常に死を眼前に立つ軍人達にとって拠り所とでも言うべきもの。
そうして実際、彼はそんな信頼を受けるに足る、よくできた人間だった。
少なくとも、アスランにはそう見えた。
強くて、理知的で、いつだって冷静に部下達を導き、そして確実に勝利を掴んできた。信頼されて当然の実力と才能を、彼は持っている。
だから、いつの間にか憧れていたのだ。
父親にすら、あまり愛された記憶がない。仕事が忙しいのはわかっていたが、それでも、本当に親身になってくれた大人はいなかった。
彼に言われるまま軍に入り、もちろん仲間はいたけれど、不安だった。
地球軍として合間見えた友人の存在を知ってからは、なおさら。
そんな時、憧れだった彼が手を差し延べてくれたのだ、どうしてそれを拒めるだろう。
求めていたのは、自分のほうだ。
「っ・・・」
「・・・やっと、思い出しましたね」
もはや抵抗をなくしたアスランの耳殻を、レイの舌がなぞりあげた。
そう、この声音は。
口調が違う以外、彼と何も変わらない。深きに沁み入るような低音、耳に吹き込まれるだけで腰が砕けそうだ。
どうして、今まで気付かなかったのだろう。
気付いてしまえば、もはや彼の声は、すべてあのかの存在に聞こえてくる気がした。
ましてや、今、アスランは闇の中。
背後から抱き締められ、体が震えた。抵抗できない。耳元でくすりと笑う男は、
正真正銘の、あの人。
けれど、何故。
ただの偶然?それにしては、あまりに似すぎている。
金の髪の、その色素も、青の瞳の、その深い色も。思い返せば、すべてが彼に酷似していたというのに。
何故、どうして・・・―――
「君は、誰だ・・・?」
戸惑ったようにそう呟くアスランに、レイは彼の髪を梳いてやった。
騙すことに、躊躇いがなかったわけではない。
だが、彼は『駒』なのだ。目的のためならば、多少の強引な手段を使うことも厭わない。
それに、何より。
自分の体が疼いている。
この、己の身体の中に"宿"る、"彼"の魂が。
「大人しくしていたら、教えてあげますよ・・・アスラン。」
自分の名を呼ぶ声音が、どうしようもなくかの人に似ていて。
青年は諦めたように、体の力を抜いたのだった。
...to be continued.
侵蝕 vol.3
群青色の髪をパサパサと揺らし、官能的に喘ぐアスランに、
レイは内心舌を巻いた。
真っ白なシーツの上に薄い色素の肌を晒す彼は、もはや羞恥など忘れたとばかりに、乱れた身体を捩らせる。
うつ伏せにした彼の尻をゆっくりとなぞりあげた。
滑らかなそれに、彼が本当に男を誘う魅惑的な身体であることを知る。
「・・・う、あっ・・・」
「感じますか?ここは・・・」
尻の割れ目を開くようにその部分を撫でてやり、親指でその部分をなぞる。びくりと震えた身体は、
しかしそれだけの反応を示すだけで、抵抗の意図は感じさせない。
収縮を繰り返す淡い色のそれが少年の目の前に晒され、アスランはシーツに爪を立てた。唇を噛む。血が滲むほどに。
「い・・・、やあっ・・・」
部屋の電気が、明々とアスランの身体を照らしていた。
腰を高く上げさせられ、少年の目の前には物欲しそうにひくつく紅色の蕾。
レイは顔を寄せると、舌でその部分をねっとりと舐めあげた。唾液の濡れた感触に、途端に青年の腰が引ける。
「っひ・・・!」
だが、レイの腕はそれを許すはずもなく、強引に押さえつけ、舌を差し入れていく。
入り口を押し広げるように襞の1枚1枚に体液を絡ませると同時に、空いている手で彼の前を探った。
もう既に、十分な張りを見せるその猛りは、アスランの欲望の証。
普段なんの興味もない、といった風な顔を見せる彼の、誰よりも淫らなその姿に、
レイは口元を歪ませる。
別に、彼が欲しかったわけでもない。けれど、
かの青年の乱れた姿は、レイの目を楽しませた。少なくともこのミネルバで、彼のこんな姿を知るのは自分だけだろう。
「あっ・・・、も、っ・・・!」
その心の弱さ故に、誰かに縋るアスラン・ザラ。
縋らなければ、その孤独に押しつぶされてしまいそうな。実際、フリーダムにセイバーを落とされ、
迷いの渦の中にいた彼の表情は、まるで死人のようだった。
それが今。
興奮に肌を染め上げ、上気した頬は明らかな欲情の色を湛えている。
これは、孤独な心を埋めるためにかつての彼が選んだ手段。
レイは、それを思い出させた。ただ苦しむよりは、拠り所を見つけ、それに縋れたほうが、痛みも薄れるというものだ。
快楽に逃げ場はない。囚われ、魅せられてしまえば、それを手放すことができなくなる。
前大戦の「アスラン・ザラ」である以上、いつまでザフトに引き入れておけるかなど、わからない。
油断はできない。例え議長の言葉に賛同し、軍服に再び腕を通したとしても、
常に誰かに依存することで生きてきた彼なのだ。
一番の親友を完全に決裂してまで、ザフトの肩を持つなど、きっと続かないと予測していた。
だからこそ、彼が一時離艦した際、その監視を具申した。
目を離してはだめだと。そう、彼は誰よりも心の弱い、迷いの中のちっぽけな存在だ。
だが、だからこそ、
信じられる物を得た彼は、強い。
きっと、世界の誰よりも。自らの信じるもののためになら、必ずや力となり、利益をもたらしてくれるだろう。
そのために、この行為は必要なものだった。
"彼"の信頼を、この"場"に留めておくために。
「達きたそうですね」
「んっ・・・あ、達きたっ・・・!」
青年を焦らそうと根元を押さえ込んでいたレイは、彼の耳元で囁いた。
一糸乱れぬ少年の軍服が、アスランの背にあたる。その堅い感触に、しかしかつての上官との淫らな行為を思い出し、
視界を奪われたままの青年は、快楽に浮かされ朦朧した頭の中で、思い出に浸っていた。
唇を離され、代わりにズブリと2本の指が突きたてられる。強引なその扱いに、けれどアスランは興奮したように荒い息を吐いた。
ぐちゅぐちゅと、卑猥な音が室内に響き渡る。耳を塞ぎたくなるようなその音を聞いて、
アスランはいやいやと首を振ったが、もはや遅い。
長い指を根元まで奥に差し入れられ、内部を探られる。ぐるりと周囲をなぞり、的確にあの快楽の根源を刺激され、
青年の口元からあられもない声音が漏れ聞こえてきた。
レイの手の中に納められたアスランのそれが、先走りの液を零し、シーツを汚していた。
後ろを刺激されるだけで、簡単に前の熱が疼いてしまう。
それは過去、男の手でいいように弄ばれ、彼好みの身体に作り変えられてしまったことを示していて、
レイの目の前でそんな身体を晒すことに、アスランは唇を必死に噛み締めていた。
だが、乱れる身体は押さえられずにいる。
何故だろう。どんなに抵抗したくとも、彼が一言耳元で囁けば、その心が一瞬にして解けてしまうのだ。
「・・・アスラン」
「あ・・・」
低い声音で名を呼ばれるだけで、指先まで痺れが走った。唇が震える。そのまま、抉るように前立腺を強く擦られる。
それは、あの、かつての上官が好んだのと同じ愛撫で、不覚にもアスランは錯覚しそうになる。
同じ声、同じ姿、同じ愛撫。アスランにとって、クルーゼは縋るべき相手。
誰もが知らない自分の孤独を、唯一理解してくれた存在なのだから。
だが、今自分を抱いているのは「レイ」という少年であって、「彼」ではないのだ。
たとえ、その声音が同じでも、姿が似ていても、彼の愛し方がかつての彼とどれほど同じであっても。
縋るべき相手では、ない。
けれど。
「あっ・・・、達かせ・・・っ!」
暗闇の中、縋れるものは一つしかなかった。
アスランの瞳の奥の幻影のクルーゼが、ふと笑みを浮かべた。あの、相変らずの皮肉げな笑みだった。
絶対的なその地位の差。どれほどトップガンであれ、たかが一隊員の自分、
何十人もの隊員たちを一つに纏める隊長格の彼。
本当は、縋ることすらおこがましいことだった。強請ることも禁じられていた。欲しいのならば、その口で求めるよう仕向けられた。どれほどの屈辱だったことか。だが、どれほどの悦びだったことか。
沢山の同僚達が憧れる中、たとえその時だけでも、自分だけを見てくれているという優越感。
心から求めれば、必ず与えられた。
もちろんそれは、自分の背後に父親である彼の上司がいたからなのかもしれない。
でも、彼を得るためにその背景が効果を示すのならば、普段は疎んじている父親という存在にも感謝することができた。
愛されたい。そうして、この孤独を癒されたい―――。
そう願って、彼の前に身を晒したのだ。
もう、身体が慣れてしまっていた。かの存在に抱かれ、そうして、快楽を奏でることに。
そうして、それは今の青年の身体も同じこと。
「いっ・・・、達かせて、ください・・・!」
だから、もう、
アスランの頭の中は、かの存在に縋ることしか考えられなかった。
2歳も年下の少年。しかも、部下に向かっての敬語など、本当は有り得ないことだというのに、
レイはくすりと笑った。もはや、自分をかれに重ねていることなど明白だった。
楽しげに、耳元に唇を寄せる。そうして、舌を差し入れる。
ねっとりと内部を蹂躙するその感触に、アスランは身を縮ませる。脳まで犯されるような気さえした。
思考が、追いついていかない。
達したい一心で搾り出したその言葉。アスランの身体が、期待に震える。
だが、レイはただ口の端を歪めると、そのまま彼の奥に埋めていた指をさっさと抜いてしまった。
いきなり失った快感に、アスランは戸惑うばかり。
次に来るものはあの、頂点へ駆け上るあの目も眩むような快楽だとばかり思っていたのに。
「あ・・・!」
「・・・俺は、レイ・ザ・バレルですよ、アスラン?」
「―――っ・・・」
思い出に溺れ、快楽の世界へと落ち込もうとする青年を、レイは意地の悪い言葉で引き戻した。
過去の記憶に浸るのもいい。だが、現実は見てもらわなければ。
今、縋れるものは自分しかいないのだということを、認めさせるために。
「彼は死んだのです。貴方の望む"彼"は、もういない・・・」
歌うように告げるレイの言葉に、アスランは首を振った。
わかっていることなのに、認めたくなかった。彼が、もういないことなど、とっくの昔に知っていたはずなのに、
それでも。
認めたくなくて、心の奥底に封印してしまっていた記憶を、引きずり出したのはレイなのだ。
それなのに、彼の死を突きつける少年に、アスランは憎しみさえ抱いた。
似ているのならば、夢を見させて欲しいのに。
あくまで自分はレイだと、彼ではないのだと、そう告げるレイ。
苦しかった。これでは、また孤独になってしまう。
―――失いたくない。
「い・・・、嫌だ・・・!」
「何が・・・?」
喪失感に収縮を繰り返すその部分を、レイは思わせぶりに指先で撫でた。
引き込もうとするその肉襞の動きを存分に楽しむ。だがそのもどかしい感触に、アスランは耐えかね、首を振った。
唯一縋ることのできた彼を失った事実を認めるのは、嫌だった。
だが、ならばどうしろというのか。
既にないものを求める自分の愚かさに、アスランは諦めたように自嘲した。
そう、彼はもう、"いない"のだ。
たとえ気紛れでも、自分に心をかけ、愛してくれた、
あの人はもういない。
「っ・・・う・・・」
唇を噛み締めた。だが、涙は止まらなかった。
瞳を覆う布が、みるみるうちに濡れ、その部分に染みを作った。止まらない。想えば想うほど、考えれば考えるほど、
アスランの中の激情は収まらなかった。
「アスラン・・・」
嗚咽をあげ続ける彼を、レイは静かに抱き締めてやった。
うつ伏せに押し付けていたその身体をあお向けにし、染みを作るその瞳の上にキスを落とす。
彼の存在の死を思い返し、漸く涙を落とした彼。レイはそのまま、彼の唇に自分のそれを重ね、口内を蹂躙する。
あれほど抵抗のあったキスも、今は簡単に受け入れてくるアスランに気をよくして、
レイはゆっくりと舌を絡め、そして彼の官能を刺激してやった。
涙を落とし、声を上げる彼は、その年齢に見合わないほどに、幼い。
しばし、彼の身体を抱き締めてやる。
素直になった彼はなかなか可愛いものだなと、レイは初めて思った。
もちろん、彼を追い詰めることはやめないのだけれど。
「・・・アスラン。でも今は、私がいます。ですから、悲しまないで・・・」
「っ・・・・・・」
耳元に甘い言葉を吹き込み、そのままレイは彼の下肢を探った。
再び捕えたそれは、泣いたために多少萎えてしまっていたが、行為を再開するとすぐに熱を帯びてくる。
レイは両手で彼自身を挟み込み、扱くようにして刺激を与え始めた。
胸元にキスをする。朱に立ち上がったそれに舌を絡ませると、ひくりと彼の身体は震えたが、
抵抗の色はない。少年は彼を見上げ、くすりと笑った。
手を離し、両足の腿の裏を持ち上げる。思わせぶりに足を開かせると、アスランは微かに身を捩らせた。
「レイ・・・っ」
名を呼ばれて顔を覗き込むと、彼の腕が伸びてきて、少年の背を抱き締める。
レイは少し驚いたが、緩く笑みを浮かべると頬にキスを落としてやった。そのまま、耳元へと辿る。耳朶を甘噛みしてやる。
「大丈夫です。もう、貴方は一人ではない・・・」
ことごとく優しい声音に、アスランは諦めたように体の力を抜いた。
たとえかの存在でなくとも、この少年にかの存在の面影を感じてしまった。縋るものを求めていたことを思い知らされ、もはやアスランに取り繕う余裕などない。
ぶり返した熱を解放したくて、自分から腰を押し付けた。耳元でくすりと笑う気配がしたのも、
すべて、今のアスランには熱を高める以外の何物でもない。
もう、孤独は沢山だった。
友人たちと決裂してから、どのくらい経ったろう。苦しかった。1人、板ばさみになって苦しむのも、もう嫌だった。
例え一時でも、この苦しみから彼が引き戻してくれるのなら―――・・・
「レイっ・・・、お願いだ・・・」
ぐい、と足を押し広げられ、アスランのその部分がレイの目の前に晒される。
先ほど散々嬲っていたその部分は、触れるだけでそれを飲み込もうとしさえする。レイは青年の望みのままに、自身を取り出すとその部分に宛がった。
両足を肩に抱えあげ、ぐっと腰を押し付ける。途端、下肢に走る鋭い痛みに、アスランは眉を顰めた。
けれど、熱に浮かされ、その痛みと快楽に、自分のこの気持ちを紛らわせることができるなら。
「あっ・・・、あああ・・・!」
「アスラン・・・。イイですよ・・・」
求めるように吸い付いてくる彼の内部に、レイは息を乱した。
初めて味わう男の身体は新鮮で、アスランから見えないのをいいことに、口元に好色な笑みを浮かべる。
どのくらい前から後ろを明け渡していないのかは知らないが、あれほどキツかったアスランの奥が、今は強く収縮し、飲み込む相手に深い快感を与えてくる。
まさに男泣かせな身体の持ち主をこうして自分が組み伏せていることに、
レイは少しだけ優越感を覚えた。
あれほど他人を拒む青年だ、おそらくは数えるほどの相手しか関係をもったことなどないのだろう。
人付き合いも苦手で、頑なな人物なのだから。
(・・・だが)
レイは冷静な視線を彼に落としたまま考える。
そういう性格のほうが、こちらも扱いやすいというものだ。
「あ、あっ!!・・・んっ・・・」
次第に激しくなる律動に、アスランは荒い吐息を漏らしていた。
もはや解けきった唇に、その声音を抑える力はなく、部屋中に甘い声音と吐息が響いている。
だが、幸いここは個室の士官室で、隣部屋には誰もいない。
存分に彼の声を楽しめる、と、レイは口元に笑みを刻んだ。足を掴み、引き寄せるようにして何度も昂ぶりを彼の内部に滑らせる。
喪失を惜しむように追いすがる熱い襞の感触が、心地よかった。尻のあたりの柔らかな肉を強く掴むと、
アスランはより一層の嬌声をあげた。
もはや、犯されることに対しての抵抗感はないのだろう。
あれほど己を拒んでいた彼を落としたことに快感を覚える少年は、
そのまま彼の前に指先を絡めた。
「っ・・・や、触るなっ・・・!」
「イっていいですよ。私を受け入れてくださった、ご褒美に・・・」
「っあ―――!!」
先ほどまでずっと焦らし続けられてきたそれの先端を強く擦られ、
アスランの身体が一気に頂点に達した。
レイ自身を体内に受け入れたまま、互いの腹の間でその精をどくどくと吐き出してしまう。
不意打ちに唇を噛むアスランをそのままに、レイは飛び散った白濁を舌で丁寧に舐め取って行く。それを肌で感じて、再びアスランの頬が真っ赤に染まっていった。
「あ・・・、汚なっ・・・」
「あの人に慣らされた割に・・・初心なんですね。まぁ、身体は十分素晴らしいですが」
「っ!!」
羞恥を煽るように選ばれた言葉に、アスランは顔を背けた。
けれど、少年は許さなかった。顎を掴み、自分のほうに向かせる。目隠しを外され、唐突な眩しさに、咄嗟に手で瞳を覆ってしまった。
だが、そんなことに気を取られている暇など、アスランにはなく、
今度こそ容赦なく腰を叩きつけられる。達したばかりの身体には、過ぎた快楽は苦痛以外の何物でもなかった。
「っ、う・・・!あ、苦しっ・・・」
だが、もちろんレイがそれを許すはずもない。抵抗を紡ぐ彼の唇を、レイは激しく塞いだ。
再び、強引に高められた熱がアスランの身体を侵食していく。
苦痛は快楽に摩り替わり、何も考えられなくなる。ただ、頭の奥が朦朧として、つま先すら痺れそうになる。
「アスラン」
目を開ければ、目の前にレイが居た。
綺麗な、ブルーの瞳。あの人と同じ色に、アスランは引き込まれそうになる。
あの人ではない。それはわかっている、けれど―――。
「レイ・・・っ」
「今度は、一緒に達きましょう」
静かな声音と共に、下肢が激しく揺れた。
もう、アスランの身体は動くほどの力は残っていない。ただ、レイのいいように扱われるだけだ。
それでも、無意識に彼を引き寄せるように膝を立ててしまっていたことに、
アスランは激しく羞恥する。
けれど、それももう、すべて今更だった。
レイの手の中に収めされているアスラン自身も、すぐ目の前の絶頂を訴えている。
「あっ・・・!れ、ああっ・・・!!」
「アスラン・・・っ・・・!」
レイが一層強く下肢の奥を抉ったその瞬間、
アスランの目の奥が弾け飛んだ。
白くスパークした視界が、次の瞬間には再びブラックアウトを起こし、アスランはぐらりと身体をベッドに沈ませた。
内部にどくどくと注ぎ込まれるレイの熱をぼんやりと感じながら、
しかし身体を動かす気力などない。
ただ、レイが降らせるキスを受け止めるだけしか、もうなにもできなかった。
「アスラン・・・」
何度も何度も呼ぶその声音に、魅せられる。
再び唇を重ねられ、アスランはそのまま瞳を閉じた。
ぐったりとベッドに沈み込んだアスランをそのままに、レイは彼の部屋の通信回線を開いた。
極秘回線で繋がった先は、プラントにいる最高評議会議長、ギルバート・デュランダル。もちろん、言わずもがなのレイの後見人である。
「議長」
「ああ、どうだね?アスランは・・・」
レイは青年のほうに椅子を向けた。
無防備な顔を晒して、深い眠りについたアスランに、レイはくすりと笑った。
初めから、利用されていたことも知らずに。もちろん彼の力も必要だったが、彼を引き入れた一番の目的は、
目下最大の脅威である、アークエンジェルらの戦力の削ぎ落としにあったのだから。
もちろん、こうして生かしている以上、いつ寝返られるかなどわからない。
だからこそ、より不穏分子であるアスラン・ザラには、目をつけていた。つけさせていた、というのが本音だろう。
そして、先の戦闘で、
ついに彼はその迷いから、落とされた。“フリーダム”―――レイやギルバートにとって最大の脅威に。
「・・・まだ、様子を見ましょう。どうせ、彼には今機体がない。今後、彼への次の贈り物が完成するまで、まだ保留でよろしいかと」
「そうか。君の判断に任せるよ。それまで、彼の手綱も共に頼む」
「わかりました。」
ギルバートのその言葉に、レイは回線をオープンに切り替えた。
青年の眠るベッドサイドにゆっくりと歩む。彼を起こさないようにベッドサイドに腰かける。
ゆっくりと彼の髪を梳いてやると、さらさらとした感触が指を零れていった。今は瞼に隠れてしまって見えない翡翠の瞳と、青の髪はよく似合う。
「・・・楽しそうだね」
「・・・ええ」
レイは素直に頷くと、そのまま青年の頬を撫でた。
長く行為を続けたせいで、目を覚ますことのない彼。眠り姫のような端整な顔を眺めて、レイは口の端を持ち上げる。
「貴方のためならば、どんなことでも楽しいですよ」
「私は少々寂しいがね・・・。君がいないのは」
「まったく。貴方は貴方のしなければならないことがあるでしょう。私にも、無論あります」
「そうだね・・・。近々、やらねばならぬこともあるだろう。よろしく頼むよ」
「はい」
眠り続けるアスランが、本当にちっぽけな存在だと思った。
ギルバートとのやりとりを交わしながら、レイの意識は珍しく彼ではなく、他人に向いていた。
別に、彼個人に興味があったわけではない。彼は自分にとってただの駒なのだから。
そして、裏切り者。かつての上官への恩も忘れ、彼の元から転属した途端、ザフトの大義に疑問を持ち、そして離反したのだから。
恨みがあるわけではない。ラウ・ル・クルーゼを討ったのはあくまであの“フリーダム”であって、
彼ではない。陣営で考えるならば、確かに彼にも思うところはあるのだが。
「貴方は、思い出してくれましたからね。・・・ラウを」
とりあえずは、それで許してやるか、と、
レイは、彼の顔にかかる前髪を払ってやったのだった。
end.
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