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星蒼圏 - 保管庫モバイル


「断心」


 「・・・明日から、ここへは来ない」
 突然の台詞だった。
 いつものように、世間の喧騒から離れたこのバーで飲んでいたら。
 平常を装う彼の手が微かに震えているのを見ながら、クラウドはセフィロスの方に顔を向けた。
 「なんだよ。あんたから呼び出しといてさ。・・・用事でも出来た?」
 朝っぱらからグラスの中のアルコールを仰ぐ。毎朝こうやって語る時間は、そもそもセフィロスが作ったものだった。
 勤務時間前のひととき。互いに、それなりには楽しんでいたはずだ。
 ちらりと彼を見やると、相変わらずセフィロスの視線は彼の手の中のグラスに向けられていた。
 「・・・別に」
 「ふうん。ま、いっけど。俺、夜勤多いからさ、結構朝早いのつらかったんだよね」
 大したことでもないように振舞うクラウドに、セフィロスは唇を噛む。
 そんな彼の姿を横目で見ながら、クラウドはボトルの酒をグラスに注いだ。
 沈黙が訪れる。
 バーの中で、古めかしい流行曲が流れているだけだ。
 会わない話をされた後で普通に話すのもいまいちだったし、そもそも2人に共通する話題もない。
 気まずい空気と時間だけが容赦なく流れていき、ついにセフィロスは席を立った。
 「じゃ」
 「・・・ああ」
 逃げるように出て行った後ろ姿を見ながら、クラウドは肩をすくめた。
 (・・・何があったんだか)
 突然自分から切り出すセフィロスなど、初めて見た気がする。
 勤務時間は迫っていたが、そのままクラウドはグラスの残りをあおっていた。
 「なんだ、クラウド、フラれたのか?」
 からかい混じりのマスターの声に、顔を上げる。
 「バカ。んなんじゃねえよ。そもそも、つき合ってねーし」
 クラウドはグラスを置くと、そのまま閉店まぢかのバーを出た。
 もうすぐ冬が来るこの季節は、薄着には肌寒い。
 いつになく冷たい風を感じながら、クラウドは神羅ビルへと急いだ。









 確かに、つき合っているわけではなかった。
 ただ傍にいたいと、それを望んだのは自分だった。
 だから、夜に遊び歩いているらしい彼がつかまる朝に、
 毎日自分の元へ来るよう望んだ。
 彼が、どうして自分の誘いに応じたのかはわからない。
 そもそも、先に弱みを晒したのは自分だった。
 言うつもりもなかった想いを、気の迷いで告げてしまったあの時の自分がうらめしい。
 クラウドの心も聞かぬまま、彼の腕に溺れた自分が情けなかった。
 彼の心が自分にないのを知っている。
 それでも、あの時の自分には彼が全てだったし、
 彼が誰を見ていようと、自分を見ていなかろうと、構わなかった。
 けれど―――――。
 傍にいて、初めてわかった。
 相手の心が自分に向けられていないことが、どんなに哀しいことか。
 今さら彼に答えを求めても、それが無理だとわかっているから、
 余計に哀しくなる。
 せめて、きっぱりとNOと言ってくれたなら、自分はあきらめていただろうに、
 剥き出しのままの心に、彼が容赦なく浸食していくのがわかる。
 そうなればなるほど、自分は彼を求めて、そして絶望していくのだろう。
 もう、耐えられなかった。
 だから、離れた。
 顔も合わせず、ずっと会っていなければ、
 きっと彼を忘れられると思いながら。
 「セフィロス・・・セフィロス!!」
 後ろからかけられた声に、セフィロスははっとした。
 「あ、ああ・・・ザックス」
 「何ボサッとしてんの?りりしさが売りの英雄様が大なしだぜ」
 自分と同じ1stのこの黒髪のソルジャーは、大げさに肩をすくめて、セフィロスの顔をのぞき込んだ。
 まじまじと見つめてくるザックスに、セフィロスが顔をしかめる。
 「・・・なんだ」
 「なーんか・・・浮かないカオしてっからさ。・・・クラウドにでもフラれた?」
 その言葉に、セフィロスは唇を噛んだ。
 ザックスは、2人の関係を知っている。誰もつき合っているなど一言も言っていないのに、不器用な彼の為にいろいろアドバイスしてくれたりしていた。
 だからなのか、自分の顔を見ただけで当たからずも遠からずな言葉が出てくる彼に、セフィロスはつくづく読みの早い奴だと苦笑した。
 「違う。・・・オレが振った」
 「ええ?!それまたどうして。」
 驚いて聞いてくるザックスに、セフィロスの顔に影が落ちた。
 言えない。
 言えるわけがない、こんな想い。
 当たって砕けろが恋愛のモットーな彼のこと、自分のこんな想いなんか笑い飛ばすに違いない。
 けれど、だからといって彼のように当たって砕ける勇気は、今の自分にはなかった。
 もはや壊れかけている自分を、つなぎ止めているのが精一杯で。
 このままだったら、自分はどうなってしまうのかわからなかった。
 「まぁ、俺の出る幕じゃないけどさ、」
 ザックスがセフィロスの肩に両手を置いて、顔を上げさせる。
 自分を見据える、真っ直ぐな瞳。
 「自分の心には忠実に生きろよ。そうじゃねぇと、後で後悔するって。」
 励ますようにポンポンと肩を叩いてきびすを返し、ザックスはひらひらと手を振った。
 一人廊下に残されたセフィロスは、動けないままその場にたたずんでいた。

 自分の心・・・・・・
 誰も、彼といたくなくて逃げ出したわけじゃなかった。
 彼が自分の心に浸食するのを、止めたかっただけだ。
 けれど、
 彼がいなければいないで、自分は必ず彼のことを思い出し、
 思い出しては1人でいる自分を嘆く。
 眠れない夜は必ず彼の腕を思い出し、むせび泣いている。
 所詮、
 一度溺れてしまえば、
 彼の存在は自分を浸食し、
 彼の不在もまた自分を浸食していくのだろう、より深く。
 気付けば、彼のことしか頭にない自分。
 最後に会った時自分に向けた彼の表情しか、もはや浮かばない。
 より傍にいたいという思いが大きくなるのに耐えられなくて、
 結局は彼の元にいたいと願う自分に、
 セフィロスはバカな奴だと自嘲した。












「断情」




 一度だけ、女を好きになったことがあった。
 ひどく保護欲をそそる女で、馬鹿なりに守ってやりたい、などと思ったものだ。
 けれど、心が弱く少しのことで死にたくなるくらいに傷ついていたその女は、
 いつの間にか自分の傍にいると途端に強気になり、
 何かあればすぐに自分をなじり、わがまま言い放題。
 嫌われるのではないかなどと微塵も考えないその態度に、自分は軽い思いで付き合ってしまった事に後悔した。
 遠くから見れば、殊勝で慎ましげな女だったはずなのに、
 いざ踏み込めば、そんな印象はどこへやら。
 約束をフイにすれば、どんな理由があろうとお決まりのセリフ。
 『私のことが、嫌いになった?』
 ああ、キライだよ。
 俺の都合も全てそっちのけで、自分のことばかり考えてるやつなんざ。
 愛想尽かした女にはいい加減別れを告げて、
 俺は夜の世界へDrop Out。
 一話完結の物語が毎夜毎夜紡がれるその場所に、
 自分の居場所を求めたのはそれからだった。
 もう、誰に想いを寄せるのも、誰に想いを寄せられるのも、まっぴらだ。
 売り物の女の肌に顔を埋める。
 欲しけりゃやるよ、俺なんか。
 そのかわり、
 心はやらない。心から愛さない、心から信じない、心から想わない。
 それでいいなら、傍にいさせてやる。
 自分の中でのその取り決めを、違えたことは一度もなかった。





 「・・・帰らなくていいの?」
 まだ日の昇らない、夜明け前。
 いつもなら抜け出すはずの傍らの男に、女は声を掛けた。
 けれど、肝心の彼は煙草をふかしたまま、動こうとはせず。
 「・・・帰ったって、何もねぇし」
 呟く。
 今までは一度帰って、シャワーを浴びてからセフィロスの待つあのバーへと行っていたのだが。
 もはやその必要もなくなったことで、クラウドは覚めてしまった頭を持て余していた。
 そっけない彼の態度にふふっと笑って女が自分の上に乗り上げる。
 「本命のコに、フラれた?」
 「・・・だから、本命じゃねぇって」
 苦笑して、女の首筋に唇を寄せる。
 吸い付くような柔らかな肌に、クラウドは目を細めた。
 「最近、あまり来てくれてなかったでしょう?皆で話してたのよ、本命ができたんだって」
 「・・・すまないな、忙しくて」
 お詫びのしるしに、と一度唇を重ねて、それから寝台を出た。
 もう一度寝直す気にもならないし、夜明け前の朝を歩くのもいいかな、と思った。
 「また来るよ」
 「待ってるわよ。貴方のファンは、ここには大勢いるわ。いつでも来て頂戴」
 そういって布団の中から伸びた腕にキスをして、クラウドは部屋を出た。
 相変わらず冷たい風が吹くミッドガルは、今はまだ目覚めていないかのように静かだ。
 自分だけ取り残されたような思いに捕らわれながら、クラウドは帰路を急ぐ。
 何気なしに例のバーを覗いて、途端に目を見開いた。
 銀色に映える、影。
 待ち合わせの時間までまだ2時間もあるのに、しかももう待ち合わせることもないというのに、
 セフィロスはそこにいた。
 思わず、足を踏み入れる。
 暗く落とした照明の中、振り向く銀影が驚きの色を宿すのに、
 なぜか暗い笑みが込み上げるのを、クラウドは止められなかった。





 「・・・なんで、いるわけ?」
 隣に滑り込むクラウドに、セフィロスは顔を背けた。
 セフィロスと同じ物を自分も頼むと、出てきたのは朝飲むには結構キツい酒。
 アルコールに弱い彼がこんなん飲んで大丈夫なのだろうか、とクラウドはふと考えた。
 「何しに、来た」
 「それはこっちの台詞」
 はぁ、とため息をついて、セフィロスを見やった。
 微かに朱を吐いた、白皙の肌。
 「・・・オレは、今日は休みなんだ。どこで何してようと、オレの勝手だ」
 「・・・・・・へぇ、意外。俺も今日、休みなんだよね」
 あんたに言うつもりはなかったんだけど、と呟いて、グラスの中の氷を鳴らす。
 それで喉を潤せば、キツめのアルコールに目が覚める気がした。
 落ちる、沈黙。
 今回、先に耐えられなくなったのはクラウドだった。
 「あんた、暇なんだろ?どこか連れてってやろうか」
 クラウドがセフィロスの腕を取る。途端、弾かれたように顔を上げた。
 「・・・触るなっ!!」
 声を張り上げて、自分をもぎ離す。それから、セフィロスは自身の体を抱いて震えだした。
 「その・・・、他の奴を抱いた手で・・・、オレに触るな・・・っ・・・」
 口元を押さえ、今にも吐き出しそうなセフィロスは、そのままテーブルに突っ伏して泣き始めた。
 クラウドの表情は動かない。ただ、双眸がすうと細められただけだ。
 「・・・おい、クラウド。なに泣かせてンだよ」
 「勝手に泣いただけだろ。俺は知らない」
 マスターの言葉をさりげなくかわしてセフィロスの腕を取る。セフィロスは既に眠っていた。
 「何勝手なこと言って・・・ってどうすんだよ」
 セフィロスを肩に担いで席を立ったクラウドは、面倒臭そうに後ろを振り向いた。
 「この酔っ払いを送っていく」
 「これ、飲ませてやれ」
 投げ渡されたものは、小瓶入りの薬だった。
 「酔い覚ましだ。気分も落ち着くだろうよ」
 「・・・サンキュ」
 軽く笑って、セフィロスを引き摺るように外へ出る。
 自分の家はすぐそこだ。
 涙を流したまま眠るその様子に、クラウドは小さくため息をついたのだった。












「断想」




 結局、眠れなかった。
 別に、いつもいつも傍にクラウドがいたわけでもないのに、
 一人で眠ることがこんなに寂しいと思ったのは初めてだった。
 浅い眠りは、
 自分を必ず悪夢の中へと誘い込み、
 覚醒を余儀なくされる。
 結局、
 セフィロスは眠ることを断念し、夜が明けるまであと数時間もあるという夜中に、
 あの例のバーへと向かった。
 もう、クラウドがこないことはわかっていても、
 セフィロスはどうしても壁から席を一つ空けて座ってしまう。
 出てきたメニューの中から適当なものを選んで、何も考えないままグラスをあおる。
 いつもはクラウドに任せっ切りだったから、彼が飲んでいた気がする酒を頼んでみて、そのキツさに思わずむせた。
 それでも、
 クラウドという人間1人に捉われたままの自分を戒める為には、
 このくらいいいか、と思った。
 頭がくらくらするくらいキツい酒をいくら飲んでも、
 自分の視界に映る幻想の中のクラウドは、一向に消える気配がない。
 挙句の果てには、キイという音に振り向いた視線の先に、望んでいた気がする彼の姿。
 「!・・・」
 クラウド、と名を呼びかけて、あわてて唇を噛む。
 だって、
 もう、名を呼べる立場じゃない。
 彼への想いを断ち切ろうと思って、またその名を口にだせば意味がなくなる。
 言えば、より鮮明に彼の姿が浮かぶだろうから。
 近づいてくる影は次第に大きくなり、案の定壁際の空席に座ってくる。
 そして、少し驚いたような顔で、「なんで、いるわけ?」としごく当然のことを聞いてきた。





 自分の隣に彼がいることに、違和感を感じる。
 聞きたいのはオレの方だ。
 なぜ、ここにいるんだ。オレの事なんか、何とも思ってないくせに。
 毎夜毎夜、とっかえひっかえ誰かを抱いてるくせに、
 どうしてオレなんかに構う?
 おかげで、オレは、
 牛乳のなかで溺れるちっぽけなネズミのように足掻くばかりだ。
 オレは、いつかそれが固まるのを知っている。
 けれど、それがいつかなんて、わからない。
 一生足掻いて、疲れて、へとへとになって、結局溺れ死にしてしまうかもしれないのに、
 お前はそれに気付いていない。
 いや、気付いているからこそオレを無視し続けるのか。
 悪魔のように残酷なお前。
 笑って人を殺すようなお前のその偽りの優しさが、
 苦痛で、・・・・・・そして、ひどく心地いい。
 疲れて、生をあきらめたオレが溺れた先には、何があるのだろう。
 真っ白な世界に、オレの求めたものはあるんだろうか?
 わからないから、いつまでもあがき続けて・・・・・・






 真っ白な、世界。真っ白な、空気。真っ白な、視界。。。。。。
 うっすらと開けた目が、天井の白さを捕らえた。
 あぁ、オレ、死んだんだ・・・・・・
 ぼんやりと考えるセフィロスに、横から声が掛けられた。
 「・・・やっと目が覚めた?ったく、早朝からあんなもん飲むなよな」
 やれやれ、と肩を竦めるクラウドは、風呂あがりなのか上半身裸で、
 見慣れたはずだというのにセフィロスは恥ずかしげに顔を背けた。
 そして、あのままクラウドに運ばれたことを悟る。
 彼は、居間でローブを羽織って来ると、セフィロスに薬を持ってきた。
 「飲んどけよ。酔い覚まし」
 「いらん」
 プイと横を向く。微かに頭痛がしたが、セフィロスは意地を張った。
 その様に、クラウドははぁ、とため息をつく。
 「・・・人の好意、受けてた方いいんだぜ。全く・・・・・・」
 無理矢理肩を掴まれ、セフィロスは身動きすら出来なくなった。
 サイドテーブルに置いていた小瓶の中身を口に含み、そのままクラウドはセフィロスに唇を重ねる。
 セフィロスは嫌だ、という風に眉を寄せたが、それ以外の動きは封じられていた。
 流れ込む、冷たい感触。
 喉の奥まで犯されている感覚に、そして久々の唇の温かさに、セフィロスの胸が熱くなる。
 けれど、自分の体のそんな反応が、今のセフィロスにはたまらなく許せなかった。
 心はクラウドから切れようと必死になっているというのに、
 どうして体は心を裏切るのか。
 何も生み出さない、自分達の間では何の想いさえ紡がれない行為だというのに、
 体だけはクラウドとの交わりを求めていた。
 そして、悪いことに、
 クラウドにもそれが知られていることが、セフィロスには哀しかった。
 「・・・っ・・・はぁ・・・」
 長い長い口付けから解放されたセフィロスは、肩で息をついた。
 見下ろす瞳は幾分冷たく、セフィロスに得体の知れない恐怖をかもしだした。
 「あんた、最近勝手だよな。何が不満だ?」
 剣呑な視線に気圧され答えられずにいると、クラウドが自分に圧し掛かって来る。
 胸元からシャツを引き裂かれ、セフィロスは息を呑んだ。
 自分の中心までが露わになる様に、羞恥がこみ上げる。
 先ほどのキスで既に立ち上がりかけていた雄を、クラウドは手で包み込んだ。
 「・・・体か?」
 その言葉に、必死に否定する。
 激しく振られる首筋に、銀の髪が張り付いた。
 「じゃあ、何?こんなに俺の傍にいさせてもらってよ・・・・・・」
 咎めるような口調に、セフィロスは瞳を閉じる。
 彼を想うが故に、彼の傍にいることが苦痛だったから。
 離れようとしていただけだ。
 それなのに、より互いを近づけるのは何故なのか。
 胸の内の痛みがより増大しているのえを止められないまま、
 セフィロスはクラウドの与える強引な愛撫に耐え続けていた。





end.