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「静かな夜の過ごし方。」


今日は、ここまでにするか、とダヴィッドが寝台に身を預けたのは、
夜中の0時もとうにまわった、遅い時間だった。
一人で使うには広いベッドには、既に先客がいる。
ラッシュ・サイクス。
つい先日、アスラム候爵夫人として正式に迎えられた、実は男の子である。
ラッシュは、布団に包まり、丸まって眠るくせがあるため、
今、ベッドの上には大きな亀がいるようだ。
始め、一緒に寝ようと自分を誘ったラッシュだったが、
さすがにこれほど書類を溜めた状況で次の日まで持ち越すわけにはいかない。
ただでさえ、最近はラッシュの我侭もあって仕事が進まずにいたから、
トルガルの無言の圧力が痛かった。
そんなわけで、ラッシュは子供のように不貞腐れて、
ベッドに先に丸まっているわけである。

「ラッシュ。布団を独り占めしないでくれ」
「・・・ダヴィッド・・・終わった、の・・・?」

寝惚け眼のラッシュは、目を擦りながら少しだけ布団を開けてくれたので、
くすりと笑って忍び込む。
ラッシュによって暖まった中は、疲れた体にひどく心地良かった。
今すぐにでも、寝入ってしまいそうだ。

「おやすみ、ラッシュ」
「ん・・・」

サイドテーブルのランプを消し、
うつ伏せになって眠るラッシュの手に掌を重ねて。
瞳を閉じる。
ラッシュはすぐに寝息を立て始めた。
それも当たり前。今日の昼は、非番の兵たちを引き連れて近場に鍛練に行っていたようだから、
疲れているのも当然だ。
自分もまた、セラパレスの使者のつまらない嫌みにうんざりしていたし、
溜まる一方の書類も頭を痛める要因となっていたから、
たまに投げたしたくもなる。
けれど。

(・・・ラッシュ、)

今は、彼が傍にいてくれる。
本当は、まだ若く遊び盛りの健康的な少年なのだ、こんな小国の領主に自由を奪われるなど嫌だろうに。
それでも、自分の差し出した手を取ってくれたラッシュが心底愛おしいと思う。
彼を守るためにも、自分は国を支えていかなければ。
心新たに決意したダヴィッドは、
そんな可愛い"妻"の身体を柔らかく抱きしめ、
そうして静かに眠りに落ちた。・・・落ちようとした。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・ダヴィッド」
「・・・ん・・・?」

長い静寂を唐突に壊したのは、ラッシュだった。
自分の名を呼ばれ、ダヴィッドが目を開けると・・・・・・

「ラッシュ?どうした?」

目の前のラッシュは、先ほどまで眠っていたとは思えないほど、
ぱっちりと目を開けていた。というより、自分を睨んでいた。
ダヴィッドは思考が追いつかないまま首を傾げた。
一体、どうしたというのだろう?
気持ちよく眠りについていたところを、自分が起こしてしまったからだろうか。

「このまま、眠るつもりかよ?」
「・・・駄目か?」

今日は、ラッシュも疲れているだろうし、正直自分も、また。
だから、普段のように彼の肌に触れることはしなかったのだが、
ラッシュはそれが不満なのだろうか?

「なんだ、シて欲しいのか?」
「っち、ちげーよ!!」

いきなり叫び声をあげて、ラッシュは顔を沸騰させる。
そのまま、ぷいと唇を尖らせて、布団を引っ張り自分から背を向けてしまった。
さすがに直接的に聞くのはまずかったか、とダヴィッドは苦笑し、
ラッシュの身体を抱きしめた。

「・・・ラッシュ。」
「べっ、別に、俺が、したいとか、そうじゃなくて、その、」

段々と語尾が小さくなっていくのがおかしくて、
ダヴィッドは必死に笑いを堪えていたが、
肩が震えるのは抑えることができなかった。
ラッシュの背を抱きしめていたから、それに気づいたラッシュは更に恥ずかしくなって小さく丸まる。

「・・・いっつも、シてたから、今日もだろうなって」
「ああ」

ラッシュの言葉に、ダヴィッドはそういうことか、と小さく笑った。
確かに、ラッシュとこういう関係になってからというもの、
長旅中の外泊だったり、イリーナや家族の目がある時以外は、大抵肌を重ねていた。
無論、ラッシュが正式にダヴィッドのモノになってからは、
どうしても夜に予定がある時を除けば、必ずと言っていいほど情を深めていたから、
今日も当然そうだとラッシュは覚悟していたのだ。
だというのに、
漸く仕事が終わり、ベッドに忍び込んできたダヴィッドは、
柔らかく自分を抱きしめたまま、悪戯な手を伸ばしてはこなかった。

「勿論、お前が欲しいというのなら、抱いてやるが。」
「ばっ、ばか・・・」

どん、とダヴィッドの胸を叩くラッシュに、ダヴィッドは、ハハ、と笑った。
ラッシュの身体を更に抱き寄せて、顔を間近に見つめる。
薄暗い中、月明かりに浮かぶ彼の白い顔がひどく綺麗だと思う。
ラッシュは恥ずかしげにやや俯いたが、
ダヴィッドから顔を逸らすことはなかった。

「・・・お前は、もう正式に俺のモノだからな。
 これからは誰の目を気にすることなく、いつだって傍に置けるし、お前に触れることだって出来る。
 だから、それほど無理強いすることもないと思ってね。」

ゆっくりと髪を梳いてやり、そのまま頬のラインを愛おしげに撫でられて、
ラッシュは少しだけ身を捩った。
ダヴィッドの瞳は本当に幸せそうで、こっちが恥ずかしくなる。
頬に触れるダヴィッドの掌に、ラッシュは自分の手を重ね、その熱を追った。

「お前が疲れているのなら、そのまま休ませてやりたかった。
 ・・・それに、たまには、こうしてただ抱き合って眠るのも、悪くないだろう?」
「んっ・・・」

親指が、丁寧に唇に触れていく。
それをなぞるように、しっとりと重ねられる唇。
ラッシュは目を閉じた。胸が高鳴るようだ。甘くて、優しいキスの味。
確かに身体は疲れていて、早く眠りたい気もした。
けれど、何度も角度を変えて与えられるそれに、
・・・興奮する。
自分から口を開き、舌を差し入れて誘う。
気づけば、ラッシュはダヴィッドの身体に乗り上げて、
深く彼の唇を貪っていた。

「は・・・、んっ、ダヴィ・・・」
「・・・もう、遅い。今日は早く休みなさい。明日だって、予定が詰まっているしな」
「そ、う、だけど・・・」

互いの唇から糸を引く程に深いくちづけを交わしておきながら、
ダヴィッドはラッシュの頭を撫でるだけで、
そのままラッシュの身体を手放し、そうして布団を引き上げてしまう。
これほど自分の熱を煽って置きながら、ダヴィッドはどういうつもりなのだろう?
本当に、このまま朝まで眠るつもりなのだろうか?
それとも、新手の嫌がらせ?

「・・・ダヴィッドの、馬鹿・・・」

寝息を立て始めるダヴィッドにつんと背を向け、
ラッシュは立ち上がりかけていた自身に指を絡めた。
息を殺して、仕方なく興奮した己を宥めるように根本から先端までを擦り上げる。
ダヴィッドを想いながらも、男に気づかれないように自身を慰める行為は、
想像以上に興奮する。宥めるどころか、
ラッシュの身体はすっかり戦闘態勢に入ってしまっていた。
こんな妻を放っておいて、眠ってしまうとは、なんてひどい夫だろう。
ラッシュは少しだけ泣きそうになった。

ダヴィッドは、いつだって傍にいられる、と言っていたが、
本当に、望む通りにいられるのだろうか?
ラッシュはそれを考えると、いつも憂鬱な気持ちになる。
解決していない覇王の件。
当初の目的であるイリーナは取り戻すことができたけれど、
覇王に幾度となく投げかけられた言葉が、
ラッシュの心を重くする。

"思い出せ""使命を""お前の存在する意味を"

考えるたびに、
本当は、こうしてダヴィッドの傍に居られないのではないか、と不安になった。
得体の知れない自分の過去。
自分自身。
自分の存在すら明確に信じられないのに、
ダヴィッドの手を取ったのは、確かな居場所が欲しかったから。
アスラムの侯爵夫人という存在。
ダヴィッドに求められる立場。
彼に抱かれるだけで、忘れられる気がしたのだ。
自分が、本当はどんな使命を背負っていて、どうあるべきなのか、とか。
ダヴィッドに愛されているだけで、
不安はすべて掻き消えた。

(んっ・・・・ダヴィ・・・ダヴィッド・・・!)

いつだって、傍にいて欲しい。
愛されたい。触れていたい。抱きしめられたい。キスをされたい。
募る欲望は、与えられても与えられても満たされることなく水が溢れるようにラッシュを苛んでいた。

(あんたのせいだよ、ダヴィッド・・・)

こんなにおかしくなったのは、ダヴィッドのせい。
自分の存在に不安を覚えるようになったのも、求められないと己の価値を見失うのも、
全部、ダヴィッドのせい。
どうして、ここまで彼に溺れてしまったのだろう?
いつの間に、こんなに彼にのめり込んでしまったのだろう!?

「っ・・・、う、うっ・・・」

考えれば考えるほど、ぼろぼろと大粒の涙があふれてきた。
必死に枕に吸いこませて声を殺そうとするが、
震える肩を誤魔化すことはできない。
何度も唇を噛んだが、一度溢れた感情は止まることがなかった。
そっと、肩口を抱かれ、ラッシュは更に涙を零した。

「・・・馬鹿だな、お前は。欲しいのなら、素直に言えばいいものを」
「無理に、決まってン、だろっ・・・!」

ダヴィッドだって、あれほど深夜までかかって仕事を続けているのだ、
ラッシュにだって彼が疲れていることくらいわかっていた。
だから、自分も彼に無理強いなどできるはずもなく。
ダヴィッドが眠りたいならば、自分は自分で欲望を処理するしかないではないか!

「・・・すまない、ラッシュ。
 まぁ、からかいも度が過ぎたかな。・・・いや、それより、そこまで私を求めてくれるとは予想外でね。」
「っ・・・」

そっと、ラッシュを自分のほうに向かせ、今度こそ意志を持って抱きしめる。
ラッシュの頬を伝う涙を舌で掬い、何度も瞼にキスを落とした。
もう、泣くな、と。優しいそれに、やはり涙は止まることを知らない。
ラッシュはダヴィッドにしがみ付き、胸元に顔を埋めた。

「愛している、ラッシュ。お前だけだ」
「んっ・・・」

何度もオレも、と呟くラッシュが心底愛おしいと、ダヴィッドは思う。
これでは、やはり当分、
2人でただゆっくり雰囲気を味わいながら眠る、という静かな夜は過ごせないな。
こちらも、我慢しては見たものの、実は大して興奮を抑えられなかった自身に溜息をつきながら、
ダヴィッドはラッシュの下肢にするりと手を伸ばしたのだった。





end.






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