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「告白。」





あれほどキラキラと輝いていた彼の瞳は、
あの運命の夜に失われてしまった。
優秀で、なにをやらせても上手くできて、それでいて自分なんかより綺麗な心の持ち主で、
嫉妬など飛び越えて、憧れすら抱いていた。そんな結城が、
今では良心のひとかけらもない表情を見せ、ニヤリと嗤い、殺人を犯す。
凍りついたような瞳は、いつだって冷たいままで、
まるで機械のようだった。
ロボットのように、計算し尽くされた筋肉が、声帯が、
返り血を浴びたまま、口の端を持ち上げ、そうして甘い声を囁いた。

「がらい。」





告白。





「今日は、3人殺してやったよ。―――父親と、息子。ついでに、その息子を庇った友人、ってやつもさ。
 馬鹿だと思わないか?あのまま逃げれば、俺のターゲットにならずに済んだのに」
「・・・結城、」

部屋に戻ってきた途端、興奮したように己の犯してきた罪を離し始める結城に、
賀来は唇を噛んでそれに耐えた。
聞きたくない。できることなら、耳を塞いでしまいたいと思う。
けれど、そんなことをしても、むしろ彼は悦んで、
更に嬉々として自分に生々しい殺人の手管を告げにくるだろう。
ただの、嫌がらせだ。
結城は、賀来が嫌がるのをわかっていて、
楽しげに告白を続けている。

「そもそもさ、あの父親だって、一度捨てた息子に情在り過ぎだろ。真実を語らず、突き離しとけば親子ともども死ぬことなんてなかったのにさ」
「・・・父親とは、そういうものだろう」
「息子を捨てたクセにか?おまけに、島の事には口を噤んで、1人イイ生活してたんだぜ?最低の偽善者だな」

ハッ、と笑って吐き捨てる結城に、
もういいだろう、と賀来はバスローブを投げ渡した。
殺人を犯してきた結城は、どんなにすぐに血で汚れた手を洗い落しても、
血生臭い匂いが消えたことはなかった。
それが嫌で、こうして彼が罪を犯す夜には、賀来は常に彼の部屋で湯を沸かし、
そうして彼を待つのが習慣になっている。
本当は、罪など犯して欲しくなどない。
だが、彼を止める術は、自分にはなかった。どんなに諭そうと彼は罪を重ね、そうして嬉々として嗤う。
そんな彼を、警察へと引き渡せば、確かに彼を罪を止められるかもしれないけれど。
それは、すなわち自分が彼の傍にいられないことに直結する。
下手をすれば、牢に拘束されたまま、発作、そのまま死に至ることだって無いとも限らない。
いつだって、彼が求めれば駆けつけられるほど傍に、いてやりたかった。
投げ渡されたバスローブに肩を竦めて、結城は唇を開いた。

「・・・あんたもさぁ。怒りとか恨みとか、湧かないのかよ?あいつらは、俺達が苦しんでる間も、のうのうと生きてやがったんだぜ?ムカつかないのかよ」
「・・・・・・俺は、わからない」

結城の言葉に、賀来は俯いた。
神父として、そういう負の感情を持つのが罪だから、とかそんな理由ではない。
本当に、わからないのだ。
確かに、自分や結城があれほど苦しい思いをしたのに、
平気な顔をして隠蔽の片棒を担いだ人間たちがいる。
それはわかっている。
けれど、
今となっては、もうあの出来事は十数年も昔の事。
そんなものを掘り返すよりも、今の賀来には、大切なものがあった。
目の前の男。
MWによって、心も身体も蝕まれてしまったこの男が、
賀来にとっては何よりも大切なもの。
彼の運命を狂わせたMWを、恨んだことは確かにあった。
けれど、もう、元には戻れないのだ。
死に急ぐ彼の傍にいてやる事しか、賀来には考えられなかった。

「・・・フン。あんたも大概、偽善者だよな」

吐き捨てて、結城はバスルームへ向かう。
冷たい声音。自分以外のすべてを見下した、蔑んだ言葉。
こんな人間ではなかった。
あの優しく、綺麗な心を持っていた結城はもういないのだと、
何度も己に言い聞かせてきた。
けれど、胸が痛む。
賀来は、結城の腕を掴み、振り向かせた。
なんだよ、とうんざりと顔を向ける結城に、衝動的に抱き締める。
凍りついてしまった結城の心のどこかに、かつての面影を見出したくて、
あの優しい熱を見つけたくて、
きつく抱き締める。

「好きなんだ、結城」
「・・・あんたね。そんな事言ってても、俺のカラダはよくならないんだぜ」
「復讐をしたところで、何もならない!」
「違うね。少なくとも、俺の生きた意味は残せる。世界の終焉という、美しい未来をね」

美しい唇が、残酷な言葉を吐く。
冷徹に笑みを浮かべるその透き通った瞳を見つめて、
その奥に潜む彼の本心を確かめる。
賀来の探し物は、しかし、今の彼の凍ったようなそれには見つからなかった。
わかっている。いつもの事だ。
抱き締めて、何度も彼の熱を追う。
けれど、どれほど身体を求めても、高まる鼓動を重ねても、
その表情は崩せない。
機械のようなそれは、いつだって冷酷な支配者の視線で、ニヤリと嗤う。

「お前が死んで、その先の未来がどうなろうと、お前はもういないんだぞ・・・」
「知ってるよ。」
「俺は、お前が死んだ後のことなんてどうでもいい!お前が、1日でも長く生きてくれるのなら、それで・・・っ」
「くだらねぇな。」

くだらない。一蹴されて、賀来は思わずぎゅっと彼を抱き締める腕に力を込めた。
何故、どうして彼は死を急ぐのだろう。
自分は、ただ、彼の傍にいられればそれでいいのに。
神父のくせに、こんな感情に支配されて、本当はロザリオなんて首にかけられるような人間じゃない。
それでも、せめて彼の為に、神に祈る。
自分は、いい。狂わされた運命の中で、罪を重ねる結城に、慈悲と、救いを、と
何度も祈った。もう、それしか自分に出来ることはなかったから。

「残りの命があと1か月だろうと1年だろうと、俺は俺のしたい事をするだけだ。
 ・・・島の隠蔽にかかわった奴らをこの手で血祭りに上げ、そうしてMWを手に入れ、世界を終わらせる。
 ああ、楽しくて仕方がないよ、賀来。お前も、付き合うだろう?」
「・・・・・・俺は、」

嫌だ、とは言えない賀来の首に、ねっとりと腕が絡みつく。
寄せられる唇。柔らかなそれは、しっとりと濡れ、そうして甘い熱を持っている。
結城がただの機械ではなく、人間である証。
けれど、それはひどく冷たい。
冷え切った熱が、己の身体に浸透する。
どれほど抱き締めても、融かすことの出来ない結城の心を感じ、
賀来は唇を噛み締める。
どうすれば、彼を救うことができるのだろう?
凍りついたままの彼の純粋な心を、どうすれば取り戻すことができる?

「・・・どうした?欲しいんだろ?」
「・・・・・・ぁあ」
「いいぜ。俺もコーフンしてんだ。気持ちよくしてくれよ」
「結城、」

男の、誘うように衣服のボタンを外してくる指先に、流される。
即物的な欲求を刺激され、賀来もまた、結城の血生臭い衣服に手をかける。
求めているのは、本当は彼の真実の姿なのに、
今日もまた、こうして肉の欲求に身を委ねてしまう自分を、
賀来は心底情けないと呆れた。





end.
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