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「二人だけの世界。」



「奇跡なんて起こらない。」

そう、言われなくともわかっていた。
ここは、“現実”。
どこかのファンタジー映画でもなんでもない。
どんなに目を逸らしていても、見ないようにしていても、
いつしか。
着実に、残酷に、現実は迫ってくる。

“死”という現実―――・・・。

今の医療ではどうにもならなかった。
MWは猛毒だ。
それをまともに浴びてしまった結城は、
みるみるうちに身体を病み、心を病み、そうして未来を失ってしまった。
誰を恨もうと、誰を憎もうと、襲い来る現実。
それを思うと、賀来はいつだって、結城を抱き締めたくてたまらなくなる。
神父だとか、神に仕えるものだとか関係ない。
結城を抱いて、抱き締めて、身体を繋げて、深く深くまで繋がって、
そうして“彼”の存在を感じたいと思う。
愛している。欲しい、そのすべてが欲しくてたまらなくなるのだ。
だから、

「俺は、もうすぐ死ぬ」

そんな残酷な宣言に、賀来は唇を噛み締めた。
口の中が乾いた。声が、震える。

「・・・なんで、そんな、結城」
「事実だ。―――ああ、残念だなぁ、神父さん。俺が死んだら、お前はどうなるだろうな?」

ベッドの上で、生まれたままの姿で、
結城は誘うように賀来に乗り上げたまま、からかうように告げる。
淡々とした表情の裏に、何を思っているのか、賀来にはわからない。
けれど、賀来はそんなことを考えている余裕はなかった。
結城が世界から消えてしまう―――その現実が、
辛すぎて。

「・・・そんなこと、俺は、」
「ふふ・・・動揺してるな?お前は本当に俺がいないと駄目な奴だな。」
「っく・・・」

繋がった箇所を揺さぶられて、賀来は咄嗟に唇を噛み締めた。
絡みつく感触は、いつだって賀来の理性を崩していく。

「ゆう、きっ」
「―――可哀想な奴。俺を失って、独りになって、それでも社会に取り残されたまま。・・・いっそ、ここで殺してやろうか」
「っ!?」

結城のほっそりとした長い指先が、撫でるように賀来の肌に触れ、そうして喉に触れた。
賀来は声も出せない。やがて、両の指先が賀来の首に絡みつく。―――息が。
息が出来ない。
まだ、それほど力を入れているわけではない。
それでも、賀来はまるで首を絞められているかのように息を詰めた。
結城は、本気なのか、それともいつものお遊びなのか。
けれど、その瞳の色は思いのほか真剣なまなざしで、
賀来はああ、と悟る。
このまま、彼と共に生きられないのなら。
いっそ、殺されても構わないと。やがて死に行く彼を見ているより、
よほど幸せだ。
一緒に死ねるのなら、それもいい。
それで、彼も、これ以上手を汚さず、苦しまずに済むのならば。

「・・・それでも、いいよ」

だから賀来は、掠れた声で告げた。
腕を伸ばして、結城の背に触れ、抱き締める。
少しだけ、結城の肩が震えたのがわかった。
目を閉じて、結城の指に力が篭るのを待った。―――いっそ、ここで殺してくれるのなら。
それでも構わないと。

「一緒に死のう、結城」
「っ」
「俺も、一緒に―――・・・っ」

バシッ、と。
その途端、頬を張る強烈な音が部屋に響いた。
ハァハァと肩を上下させる結城の表情は、ひどく歪んでいた。
怒り狂ったようなそれに、賀来は絶句する。
呻く賀来の口の端からは血の赤。更に結城は、彼に乗り上げたまま、衝動的に暴力を振るった。
みるみるうちに、頬は赤く腫れ上がり、切れた口の端が痛々しい。
されるがままの賀来に、
結城は何度も殴りつけた後、そのまま彼の上から降りた。

「興ざめだ」
「っ」

ずるり、と自身の内壁を擦る賀来のそれにも構わず、
床に投げ落していたバスローブを羽織り、そうしてサイドテーブルの煙草を手にする。
寝室から離れたリビングの窓際で外を見下ろしながら、
結城は煙草を吹かした。
あわてて、賀来は結城を追いかける。

「帰れよ」

賀来のほうも向かずに、たった一言だけ。
凍り付いたような言葉だけを投げかけて、結城は外を見つめている。
いくら結城の心が気紛れとはいえ、
彼を怒らせたのは確実に自分で、
だからこそ賀来は、彼の言葉通りこの場から去ることもできない。
だが、こうなってしまうと、結城は絶対に折れない男だった。
下肢の興奮が、みるみるうちに褪める。
それどころではない。
彼の心を傷つけてしまったと、迂闊な自分を賀来は責めた。

「・・・っ結城・・・俺はっ・・・!」
「俺は、―――」

なんとか彼を振り向かせようと紡いだ台詞は、
唐突な結城の声音にかき消された。
だが、結城は言葉を続けずに、沈黙した。思わず漏れそうになった言葉を飲み込み、
口元を抑える。
言えるわけがなかった。
口にしてしまえば、きっと更に溺れてしまうから。
賀来という存在。失えないのは、きっと誰よりも自分が、だ。
けれど、結城は耐えた。
唇を噛み締め、更に顔を背けた。

「結、城?」
「・・・何でもない。もう、行けよ」

口を閉ざすと、どんなことをしても何も口を開かないことを知っている賀来は、
諦めたように肩を落とした。
こんな時、自分はどうすればいいのだろう?!
慰めることも、宥めることも出来ない、彼を傷つけるだけの自分。
どうすれば、いい?
賀来は、結城に背を向け、こちらも苦しげに拳を握りしめた。
愛している。
ただ、それだけなのに。
そばにいたい。
ただ、それだけなのだ、本当は。

「・・・結城。俺は、」
「・・・・・・」
「俺は、お前とずっと、一緒にいたい。
 いつでも、いつまでも、ずっと、永遠に。お前と一緒にいたいだけなんだ、結城」

振り向いて、結城を強く見つめる。
そう、ただ、彼の存在だけ。
彼さえいれば、それでいい。世界でたった二人だけならば、
どれほど幸せか。
一緒にいたい。
片時も離れず、触れ合ったまま、抱き合ったまま、永遠を生きられるのならば。

「結城」
「・・・・・・わかってんじゃん」

ぼそり、とそれだけ言って結城は、漸く賀来のほうを振り向いた。
近くの灰皿に煙草を押し付けて、
結城は歩む。
再び、その表情は妖艶な色合い。
ぱさりとローブが床に落とされ、再び結城は生まれたままの姿に戻る。
その口許が、その口の端が誘うように持ちあがる。
立ち尽くしたまま、動けないでいる賀来に、
結城は再び手を伸ばす。

「さぁ」

来い、と掌を差し出されて、
賀来は苦しげに表情を歪ませた。
溢れそうになる涙を堪える様に。もう、どうしようもなく溺れている自分を自覚して、
掌を取るよりも強く彼の身体を抱き締めた。
もう、どうなっても構わない。
ただ、欲しくてたまらない。結城美智雄という男のすべて。
彼に触れて、抱いて、繋げて、深く繋がって、そして。

「・・・もっと、激しく抱けよ。お前の本音を、俺に見せてみろ」
「っ・・・」

紅色に染まる甘い唇に噛み付くようにキス。
絡みつく舌先に感じる苦味は、きっと今の自分の胸の痛みと同じ。
賀来は、その感触を無視するように瞳を閉じると、
込み上げてくる欲望に身を委ねた。





end.