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「St. Valentine」
元々、バレンタインデーだから、と特別にミサを開いたわけではない。
ただ、丁度その日が日曜日で、毎週の定例ミサだったから、
少し語りの中にバレンタインデーの起源の話しを混ぜただけだ。
誰かを想うことの大切さ。
ただ想うばかりでなく、行動に表すことの素晴らしさ。
神の愛が無償であるのと同じように、
ただ相手を愛する気持ち。
カトリックでは正式な記念日として捉えられていない日ではあるが、
愛する者たちのために秘密裏に愛を誓わせ、そして処刑されたとされる聖ヴァレンティヌスは、
きっと、とても慈愛に溢れた人物だったのだろうと思う。
「うわあ、神父さま、一杯もらったね!」
「ああ、そうだね」
子供達の指摘に、賀来は腕に抱えたチョコレートの箱を見遣った。
驚くべきことだが、これはすべて、今日ミサに訪れた女性たちに貰い受けたものだ。
このなかで、恋愛感情がわずかでも篭っているチョコレートがあるかといわれれば、
確かに、若い女性からのものも2、3はあったけれど、
正直、そういう意識でプレゼントをもらったことがないからわからない。
そもそも自分は神に仕える身であるし、
更に言えば、既に心に居座っている大切な人物がいる。
だから正直、戸惑った。
たった一人で、この量を消化するのはかなり厳しいだろう。
「・・・こんなにもらっても、僕だけじゃ食べきれないよ。―――くださった方に感謝して、みんなで食べよう」
「ダーメ!神父様さまもらったんだから、神父さまが食べなきゃ!」
「そうそう。それに、僕たちももらったんだ!」
へっへーん、と、得意げに背中に隠していたものを差し出されて、
またも賀来は驚いた。
気付けば、周囲に群がる子供達の手には、
自分がもらった物など比べものにならない数のチョコレートが抱えられてた。
しかも、よくよく見れば、子供達同士が交換するようなかわいらしいものではなく、
若い女性が本気で好きな人に渡すような、豪華な装飾のついた気合の入ったものから、
手作りで綺麗にラッピングされたものまで本当に様々。
どうしたんだい、と賀来が聞くと、
またもや子供達は得意げに鼻を鳴らし、入り口のほうを指指す。
子供たちの言葉と、自分がそちらに顔を向けたのは、ほぼ同時だった。
「お兄ちゃんにもらったんだ!」
「結城!」
賀来の視線の先には、開かれた扉に凭れかかる結城の姿があった。
わあっと駆け寄る子供たちに、けれど結城は賀来から視線を外さない。
子供たちの頭を撫でてやり、神父さまと話があるから、と結城が一言言うと、
先ほどまで、ミサで騒げずにいた子供たちは、
喜んで外へと飛び出していった。
漸く静かになった講堂で、男二人、沈黙が続く。
賀来は、ただただ長身の彼を見つめていた。
ずっと、焦がれていた気がする。別に、1週間や1ヶ月も会わなかったわけではない。
それでも、彼と一度離れてしまうと、それが永遠のように思えて、
二度と会えないかのように思えて胸が痛むのだ。
だから、結城からこうして足を運んできてくれるのは、喜び以外の何物でもなかった。
「・・・結城」
「なんだよ、神父さん。せっかく来てやったってのに・・・えらく人気者だなぁ?」
からかうような口調と、手元チョコレートを指す指先。
俺なんか必要ないんじゃないか、と皮肉げに告げる結城に、
苦笑した。
相変わらず、そうやって人をからかうのが好きな奴だと思って。
こんなチョコレートが山ほどあったところで、まさか結城の存在と秤にかけられるわけがない。
そんなこと、彼だってわかっているはずなのに、
わざとそういう事を自分に投げかけては、自分を困らせるのが好きらしい。
「お前こそ、豪華なものを沢山もらってたじゃないか。子供たちの持っていたチョコレート、あれはお前のだろう」」
「当然だ。けど俺にとっては本当にどうでもいいモノだしな。捨てるよりはマシだろ?」
心を込めてチョコレートを渡したであろう女性が聞けば、ショックを受けるような事を淡々と。
ひどい男だとは思うが、例え嘘であっても、自分にだけはアイシテイルと囁いてくれるのだから
浮ついてしまう心はどうしようもない。
どうして、こんな男がこれほどまでに大切だと思うのだろう?
彼の一挙一動に、目を奪われる。
「で、お前は、俺に何もないわけ?」
わざわざ貰いに来たんだけど、と
女からの貰い物を捨てるといったその口で、結城は賀来に強請るような視線を向けた。
だがどうせ、彼の言うとおり、素直にチョコレートを渡したところで、
彼は満足しないだろう。
それどころか、気持ち悪いと馬鹿にされるだけだ。
「・・・今日は、お前に会いに行くつもりだった」
「へぇ。神父様自ら俺に?」
俺がどこにいるかもわからないのに?と楽しげに告げる結城は、
たった二人きりなのをいいことに、細くしなやかな腕を絡みつかせてくる。
外には子供たち、誰でも入ってこれる教会。
いつもの賀来ならば、周囲を考えない結城の行動をたしなめていただろう。
けれど、今は特別だ。
賀来は、自ら腕を伸ばして結城の身体を抱き締めた。
言葉にならない想いを抱えたまま力を込めれば、
フフンと鼻で笑われる。
「不謹慎な神父様だな」
「今日は、お前を放したくないんだ」
「じゃ、愛でも誓っていく?」
そう言って結城が見上げたのは、壁に掛けられたイエスの像。
同性愛を禁じた神の目に、自分たちはどう映っているのだろう?
きっと、幸せになどなれない。
愛を誓ったところで、受け入れてなどくれないだろう。
「ほら、早くしろよ。神父さん」
唇を尖らせて催促する結城に、賀来はやれやれと彼のお遊びに付き合ってやることにした。
健やかなる時も病める時も、とお決まりの文句。
意外にも結城は、真面目な顔で「誓います」と告げるものだから、
賀来のほうが戸惑った。
今度は、自分の番。
結城の形のよい唇が、自分と同じ文句を紡いだ。
健やかなる時も病める時も?
当たり前だ。
何があろうと、どんな時であろうと、自分は彼を想わない日はないだろう。
いつだって、傍に居てやりたいと思う。
彼のためになるのならば、命すら喜んで投げ出すだろう。
「・・・ボーッとしてんなよ。聞いてるのか?」
答えない賀来に焦れたのか、喉元を掴んで無理矢理顔を近づける。
間近に迫る整った顔立ちに、どうしようもなく焦がれた。
あと少し近づけば触れ合える距離。躊躇する前に、身体が動いた。顔の角度を傾けるだけで、
簡単に触れ合う唇。
一度重なってしまえば、後は留まることを知らなかった。
彼の頭を支え、そうして深く口づける。
互いの舌を求める動きは空回りし、なかなか上手く触れ合わない。
だからこそ、いよいよ止まらなくなった。
含みきれない体液が口の端を汚す頃まで長い時間、熱っぽいキスが交わされる。
二人して肩で息をしなければならない程まで口づけて、
結城は賀来を睨みつけた。
「っはぁ・・・、順番が違げーよ、馬鹿」
「す、すまない」
そういえば、誓いの言葉を告げる前に、キスをしてしまっていた自分に、
頭がボーッとしていることを自覚する。
多分、それは結城のせいだ。
彼が珍しく、自分と甘い時間を過ごすことを許してくれたから。
「ったく、しょうがねぇな」
呆れたように肩を竦めて、そうして結城は何やらポケットから包みを取り出した。
大きさはそれほどでもなかったが、掌サイズの丸いチョコレートが、手際よくラッピングされていて、
賀来はまたもや驚かされた。
やるよ、と軽い口調で手渡され、賀来は手の中のそれをマジマジと見やる。
「・・・俺に?」
「そ。感謝しろよ。手作りだぜ?」
あまりの感動に動けずにいる賀来に、今度は結城からの甘い口づけ。
きっと、もう今夜は自重できないだろう。
精一杯の想いを込めて、賀来は結城の背を抱きしめた。
end.
そして中にはトウガラシとコショウが山ほど入っているというオチ。(笑)
男同士でバレンタインとかキモくて素敵ですvvv(おーい)