女性向二次創作サイト
星蒼圏 - 保管庫モバイル
「雪景色の朝。」
その日は、冬の寒さも大分和らぎ、春も目前、という雰囲気だった。
急に呼び出されたのは、その日の昼過ぎ。
運良く大して用事のなかった賀来は、1時間半かけて結城の住まうマンションに到着した。
こうして呼び出されるのは、大して珍しいことではなく、
ただの結城の我侭だ。
大した用事もないのに、暇だから、となんとなく呼び出すこともあれば、
気づかないうちに彼の犯罪に手を貸す羽目になることも多々。
だから、賀来にとっては憂鬱な瞬間でもあるのだが、
それでも、奔放で、あまり自分の元にいたがらない結城から、会いたいとせがまれるのは、
ひどく心が湧いた。あの魔性の魅力に絆されているということは、
自分が一番よくわかっている。
「・・・結城。来たよ」
チャイムを鳴らす事数度。
一向に反応のない室内に、賀来は首を傾げる。
自分で呼び出しておいて、いないということはさすがにないだろう。
少しの逡巡の後、万一の時以外は使うな、と言われていた合鍵を差し込んでみる。
扉は、簡単に開いた。
高級マンションの広いフロアを通り、彼がいるであろうリビングへ。
大きな窓についているカーテンは開かれていて、まぶしい程に太陽の光が差し込んでいて、
賀来は思わず目を細める。
結城の姿を探して室内を見渡す賀来は、
やがて、広いソファの上で、蹲っている青年を見つけた。
「っゆ、・・・」
初めは発作で苦しんでいるのか、と焦ったように駆けつけた賀来だったが、
すぐに息を飲んで結城の名を呼ぶのをやめた。
結城は、眠っていた。
ソファの上で、猫のように丸くなったまま。
その表情は、ひとつも苦しんだ様子はなく、彼にしては珍しく、ただただ安らいだ表情をしている。
「・・・結城」
彼を起こさないように、賀来はそっと彼の元に近づいた。
相変わらず、美しい顔立ちだと思う。
これでは、女にも男にもモテるのも無理はない。端整な顔立ちと、高い身長。
細い手足の割には力もあり、決して女性らしい体型でもない。真面目で固そうな印象はあるものの、
頼りがいがあり、はたから見れば将来有望なビジネスマンだ。
けれど、そんな雰囲気とは別に、
結城は、男の前ではひどく妖艶な蝶に変わった。
しなやかな腕を首に絡ませ、耳元で甘く囁かれれば、
どんな男でも揺らがない者はいないだろう。
実際、結城が堕としてきた人間は男も女も合わせて10本の指ではとうに足りず、
賀来が知っている相手だけでも数人いるのだからやるせない。
嫉妬を覚えることもあったが、
彼を縛ることは、賀来には不可能だ。
こうして、自由に彼の傍にいられる事、
自分が唯一彼が本音を吐き出せる場所である事、
それを噛み締めて、彼の行動には口を出さないよう努力した。
こうして、眠りの中にいる無防備な結城を拝めるのも、きっと、自分だけの特権のはず。
だから賀来は、結城の横にそっと手をつくと、ゆっくりと顔を近づけた。
―――愛している。
そう自覚したのは、一体いつのことだったろう。
島から命からがら逃げてきて、必死に生きていただけの子供の頃。
やがてあの忌々しいガスの後遺症に結城が苦しみだし、そうして彼の心に悪魔が棲み付いた。
あの時、どうしてもっと早くに気づいてやれなかったのだろうと思う。
一人苦しんでいた時にこうして抱き締めてやれていれば、
彼がこれほど壊れることもなかったはずだ。
「結城・・・」
神の御心に背くこの感情を、けれど賀来には抑えることなどできない。
神を愛し、神に仕えねばならないはずの自分が、
気づけば彼のことばかり考えている。
欲しい。
彼の存在全てが。
出来ることなら、誰にも渡したくない。
賀来は首を振った。
なんという、邪で自己中心的な考え方だろう。
本当は、こんな事をしたいわけじゃない。
ただ、言葉で伝わらない想いを伝えたくて、誘われるままに幾度となく身体を重ねてきた。
けれど、結城に、自分の気持ちは本当に伝わっていたのだろうか?
これほど近くに寄っても目を覚まさない結城は、
まるで綺麗な人形のようで、少しだけ不安になった。
結城の、薄く形のよい唇に触れたい。
そう思った瞬間、己の身体は彼に完全に覆い被さっていた。
彼から誘われてキスをしたことはあっても、
自らの意思で彼の唇を奪ったことは久しぶりで、
少しだけ後ろめたい気分に襲われる。
かすかな、けれど確実な熱を唇から感じた賀来は、そっと頭を上げた。・・・上げたつもりだった。
「っつ―――んんっ!?」
いきなり、頭の上に衝撃が走り、賀来は更に深く唇を重ねる羽目になっていた。
頭を抑えているのは、結城の掌だ。賀来は慌てて身を起こそうとしたが、結城の腕にがっちりと背をつかまれ、
キスを続けることを強要される。
躊躇いなく侵入してきた舌に眉根を寄せつつも、その甘い味に酔わされた賀来は、
気づけば心にこみ上げる衝動のままに、誘われるままに舌を絡ませる。
眠っていた結城の渇いた喉を潤すように口付けて、
含みきれない体液が、やがて結城の口の端から溢れる。
漸く唇を離す頃には、結城の唇は紅く濡れていて、
艶やかなそれに賀来は目を細めた。
「・・・はぁ・・・、フフ・・・今日は、お前からシたな」
結城の言葉に、賀来は我に返り、焦ったように頬を染めた。
普段は、こんな行為を求めるのは結城ばかりで、
自分から彼を求めたことなどほとんどなかっただけに、
結城はひどく上機嫌だ。
両腕が賀来の首に絡まると、はだけたワイシャツから白い肌が覗き、
賀来はごくりと喉を鳴らす。
駄目だ、普段のように理性で抑えることなんてできない。
こうして無防備に肌を晒す結城に、目が離せない。
「俺に欲情したな?」
「・・・ああ」
「じゃあ、朝飯作ってきてくれたら、やるよ」
「え?」
「腹減った。」
そのために呼んだんだよ、と悪びれもなく告げられて、
賀来は破顔してしまった。
聞けば、朝方早くに戻ってきた後、睡眠欲に負けそのまま眠ってしまったのだという。
そうして、気づけばもう既に日は高く上っていて、
けれど動く気にもなれない彼は、賀来を呼んだというわけだった。
いまだ、眠そうに目を擦る結城は、
賀来に昼飯を作れと言っている割に、賀来の首に回したまま離そうとしない。
それどころか、彼の首に顔を埋めたまま、再び眠ろうとしているのだから、賀来は焦った。
このまま眠られても困る。
こんな変な体制のまま、動けなくなってしまうではないか!
「ゆ、結城っ・・・」
「夢を見たんだよ」
うっとりと告げる結城に、賀来は動きを止めた。
彼が夢の事など話すなんて珍しい。自分も結城も、一人寝ではいつもあの夜の悪夢ばかりに魘されていたし、
二人での夜は夢もみないで眠ったから、珍しいことだった。
「夢?」
「お前と二人で、旅に出た夢だ。
世界には俺とお前しかいなくて、俺たちは誰に追われることもなく、誰に邪魔されることもなく、
俺たちは何も考えずにいられた。・・・イイ夢だろ?」
「・・・ああ」
思い出すようにゆっくりと目を閉じて。
それに応じる賀来の声音が、不意に泣きそうに震えた。
結城の語る夢は、まさに自分が神に幾度となく祈ってきた平和な世界そのもので、
賀来は唇を噛み締めた。
どうして、これほど自分と彼の望みは同じなのに、
道を違えてしまったのだろう?!
復讐に走る結城を止められず、神に縋る道を選んでしまった自分。
辛かった。
「・・・実現すればいい」
「賀来?」
「仕事も、住む場所も、戸籍も、すべて捨てて、誰も知らない場所に行けばいい。―――結城」
「馬鹿だな、賀来。俺たちが追われているのは、政府じゃない。―――死神だよ。」
にやりと笑い、結城が賀来の腕を取る。
彼の掌を導いたのは、はだけた己の胸元だ。発作のたびにいつも結城が抑える箇所。
弱々しい心臓の鼓動に、賀来は息を呑む。
「どうせ、どこに逃げたってすぐ傍まで来てるんだよ、アイツは。
悔しいだろう、賀来。俺は、俺たちを平和な世界から追いやった奴らを許さない。
だからお前も付き合えよ?」
「っ・・・結城」
何か言葉を紡ごうとして、しかし何も返す言葉のない賀来に、
結城は気にした風もなく口付ける。
今度こそ、賀来は自らの心を抑えきれずに、激しく結城の身体をかき抱いた。
絶対に失いたくない。手放したくなんてなかった。
彼がいない世界なんて、考えたくもなかった。
「っ結城、俺はっ・・・」
「ま、まずは飯だな。・・・いつの時代も、腹が減っては戦はできぬ、って言うだろ?」
賀来が何か言おうとするのを、肩を竦めて遮ると、そのまま結城は身を起こし、
ひとつ背伸びをした。
いい朝だ。
賀来が傍にいる朝は、なんと楽しい時間だろう。
嫌がる賀来を連れ、無理矢理デートスポットに行くのもいい。
それとも、このまま夜まで自分だけの檻に閉じ込めて、彼が後悔するほどまで
激しい行為に興じるのもいい。
さぁ賀来、今日は何をして遊ぼうか?
「賀来。勿論、午後は1日暇だろうな?」
「・・・お前以外に、大事なことなんて、ないさ」
「フフ。罪深い神父様だな?」
結城のしなやかな身体が絡みつくのに、今度こそしっかりと抱き締めて。
絶対に手放さない、と賀来は心から誓うのだった。
end.
2010年春コミ内、MWプチオンリーのパンフレット企画用に書き下ろした作品。
パンフレット内でのみの公開だったため、お読みでない方もいらっしゃるかと思いUPしました。
賀結オンリーでもないのできっとお読みになる方は結賀さんがほとんどだったんだろうなぁ。
前置きで賀結と書いていなかったので、申し訳ない限りです。
でもでも、こっそり布教のつもりで頑張って書いてみた!
今までの私の作品の要所を集めただけのベタな内容ですが、少しでも賀結のイメージが
伝わればなぁと思います。