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「暴走」





「どうやら、ただの流れ者ではなかったらしい」
「・・・そ、んな・・・」

血塗れの左手のうちに捕らえた"モノ"を、ファタルは無造作に投げ捨てた。
今となってはただの肉片でしかないが、つい先ほどまではあの子供の心臓だったものだ。
役目を果たし、見る影もなくなったそれを見やり、ラティスは強く拳を握り締めた。

「・・・アイツらだ」

どこかで、誰かが呟く。
呻き声の渦の中、次第にそれは大きくなり、ラティスの耳を打つ。

「VIOLENTSの奴ら、最近不審な動きばかりしていやがった」
「きっと、この計画のためだったんだ・・・中途半端に攻めてきたり」
「もう、我慢できねぇ・・・。無用な争いまで望むような奴らと、俺たちが共生できるわけがない!!」
「ラティ!!このまま全面戦争だ!俺たちのクスリがあればこの状況だって・・・」

「駄目だ」

仲間達の怒りの声に、しかしラティスは断固としてそれを許さなかった。
それは、今の組織の状態を考えた、少年の最後の理性。
感情に任せて勝算のない戦いに挑むことがどれほど愚かなことか、わからない彼ではない。

「・・・怪我人を運んで地下へ戻れ。出来るだけ早くだ」
「でもラティ!・・・悔しいじゃねぇか。俺達は・・・っ」
「俺の言うことが聞けねぇのか?」

刺し殺されるような、瞳だった。
ひどく凍りついたその色に、仲間達は恐怖さえ覚える。
次に一言口答えすれば、彼は確実に、つい先ほどまで仲間だった存在すらも平気で手にかけるだろう。
漸く言葉に従い動き始めた者たちの波を尻目に、ラティスは出口へ歩き始めた。

「どうする気だ?」
「殺す」

口数の少ないこの少年は、今はファタルの知るラティスではなかった。
ファタルは眉を顰めた。明らかに理性を失っている彼は、男の言葉など耳を貸しそうにない。

「やめておけ。死ぬぞ」
「うるせぇ」
「・・・それに、皆殺しなどお前の望みではないだろう」
「うるせぇんだよっ!!!」
「っ―――・・・」

瞬間、強烈な衝撃波に全身を打たれ、ファタルは不覚にも背後に跳ね飛ばされた。
先ほどの爆発で受けたダメージのため本調子でなかった男は、
身を庇うこともままならずに、瓦礫となった壁財に叩き付けられる。

「エル、・・・」

少年を呼ぼうとして、ファタルすら気圧される。
普段の濁ったような灰の瞳が、烈火の如き赤色に染まっているのを目にして、
それはまさに、羅刹のようだと、
ラティスはぱっくりと裂けた血塗れの腹部を押さえながら思う。
だが、彼の中の何かが警鐘を鳴らしていた。
このまま彼を暴走させてはいけない。
その時、この絶好の機会を待ちに待っていた"VIORENTS"の者たちが、室内に押し入ってきた。
当然のごとく、激しい乱闘が始まった。ラティスが無言で手を上げる。
人間たちにはわからない、だが恐ろしいエネルギーが彼に集まってくることに気付いたファタルは、

「・・・っ、」

左手で、ラティスの腕を掴んだ。
ラティスは、先ほどのように鬼のような形相で己の邪魔をする男を睨んだ。
だが、二度同じ失態を犯す男ではない。まっすぐに少年を見据える。そうして、

「やめておけ。それでは、お前の大切な仲間まで殺してしまう」

ファタルは少年の手の中に、鈍く光るモノを滑り込ませた。
それを目にして、ラティスは何故か怯む。あれほど怒りに燃えていた瞳が、普段の色を取り戻す。
途端、力が抜けたように地面に膝を付く少年に、ファタルは少しだけ胸が痛んだ。
だが、仕方が無い。
彼の本来の力は大きすぎるのだ―――この地では。
記憶を持たず、己の力を操る術すら知らない彼だから、尚更。
理性を取り戻した少年は、
手のなかのそれと、男を見比べ、改めて驚いたような顔をした。

「・・・っこれ・・・」
「私の部屋に落ちていた。忘れ物だ」

男の言葉に、もう一度手の中の銀のプレートを見やり、
ラティスはぎゅ、とそれを握り締める。
自分にとってひどく大切なそれを、今の今まで忘れていたことが悔やまれてならなかった。
少年を庇うように、ファタルは襲い来ようとする者たちに対峙した。
ラティスははっとした。漸く彼がどのような状態にあるのかを思い知って、
彼は初めて痛ましい顔をする。

「あんた、・・・その怪我・・・」
「・・・大丈夫だ。」

片目を潰し、半身を血に浸した状態でなお、
男はラティスに笑みを傾けた。
先ほどの少年と同じように、片手を上げる。掲げられた左手が、軽く円を描く様な仕草を見せた次の瞬間、
室内を満たす異質な光。先ほどの爆発の時とも違うそれに、
会場にいた全ての者が釘付けになる。それはラティスも同じだった。

「・・・っな・・・」

後は、ラティスには何が起こったのかわからなかった。
時が止まったように身動きできずにいた仲間達が自由を取り戻したときには、
既にVIORENTSの者は存在せず、
つい先ほどまで激しく争っていたはずの相手がいなくなってしまった事に皆は戸惑い、困惑する。
そんな中、己を庇うように立っていたはずの男が倒れていることに、
ラティスは焦ったように彼を抱き起こしたのだった。






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