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「共逝
  〜たいせつな、もの。」


後編


ありがたいはずの彼の言葉に、しかしフラガは同調などできない。
再び銃声が響き渡り、室内に次々と断末魔の叫びが発される。クルーゼが相変らずの無表情で、
部屋に倒れ、身動きもできずにいた瀕死の兵士達を殺していた。
ともすれば、助かったかもしれない彼ら。
だが、今となっては既に遅い。己のために、クルーゼは彼らの息の根を止めたのだ。
そうしてその事実は、ただただフラガを苦しめた。
立ち上る、血と、炎と、白煙。
そう、自分は、こんなことをしている場合では、ないはずなのだ。

「もう、やめろ・・・!やめてくれっ・・・!俺はっ!」
「―――聞き飽きたな、その台詞」
「っう・・・!!!」

ぐっ、といきなり自身を握る手に力を込められ、フラガは息を詰めた。
そう、もはや抵抗など不可能なのだった。彼は、既にクルーゼの腕の中に堕ち、それを拒む術をすべて奪われていた。
ゆっくりと、唇がフラガの首筋を這い、そしてその部分に歯を立てた。脈動するその部分は、
動脈。きつく噛んでやれば、フラガは到底人に聞かせられるものではない、ひどく艶めいた声を零した。
ぞくり、とクルーゼもまた、煽られる。甘美なそれに、欲望を掻き立てられる。
理性が―――、崩れ落ちるよう。
胸元に忍ばせていた通信機が、クルーゼを現実に引き戻そうと無機質な音を発していた。
軽く眉を寄せて、片手でボタンを操作する。オープンにしたそれから聞こえてくる、仲間の―――少年の、声音。

『ラウ?大丈夫?』
「―――ああ」

「っ・・・」

周囲の音を拾う設定に切り替えられたそれに、フラガは一気に熱を上らせた。
慌てて、唇を噛み締める。一言も、声を漏らすわけにはいかなかった。誰にも、クルーゼの同志たちにも、気付かれたくはなかった。
そう、『Blue Eyes』のメンバーには、ほとんど面識があるのだ。
通信機の先の彼らに、知られたくはなかった。いや、それ以上に、この場に近づけたくなくて。
懇願するように、クルーゼを見やる。
だが、クルーゼはフラガのことなど気にした風もなく、彼が望むままの愛撫を続けていた。
乱暴といってもいいほど強引に自身を扱かれ、胸元の突起には歯を立てられ。
痛みに近い快楽は、フラガの身体を極限まで高めさせる。洩れてしまうのを止められない口を、フラガは両手で押さえるしかなかった。
もはや、クルーゼや通信機が発する声音など、聞き取れない。
視界だって、熱に歪み、クルーゼの顔すらまともにみえていないのだから。

「んぅ―――・・・」

『こちらの制圧は完了したよ。そっちは?』
「―――殺した」

そうして、クルーゼは。
懇意であるはずの少年にすら、そっけない声を発していた。
それほど、目の前の彼の獲物に夢中だった。何を壊しても、何を失っても、
それ以上に優先すべき事柄。クルーゼにとって、それがこの男―――ムウ・ラ・フラガの存在なのだ。
クルーゼの、普段とは違う空気に気付いたのか、少年は押し黙った。
その間にも、クルーゼはフラガの身体を侵蝕していく。深く、奥の、そのまた奥まで。
感触を確かめていた尻の奥を開くようにその部分を晒して、その望みのままに指先でそこを拓いていった。

「・・・ぁ・・・!」

『・・・ラウ』
「・・・すまない、私は―――・・・」

「・・・っんぅ―――っ!!」

誰に断りを入れたのかもわからぬクルーゼの言葉と共に、下肢を襲う強烈な刺激。
まともに解してもいない奥に、しかしクルーゼは強引に内部へ押し入ろうとしていた。
異物を排除しようと、そこは激しく収縮を見せている。こちらも視界を奪われるほどのキツイ締め付けに、それでもクルーゼは唇を噛み締め、そのまま暴力的なそれを進めていく。
フラガの口元から押さえきれない声音が洩れるのに気付いて、通信機の電源を切る。
もの言わぬそれを、クルーゼは無造作に足元に落とした。

「っ・・・!!あ、ああっ・・・、やめ・・・っ・・・」
「・・・くっ・・・」

滑りの悪い内部を乱暴に拓かせたためか、切れた粘膜からは血の赤があふれ出していた。
だが、クルーゼは構わない。痛みに震える身体を壁に押し付けて、何度も腰を叩き付けるように。流れる血が潤滑油の役目を果たし、キツかったそこはそのうちに滑る。
そうして、抑えることを忘れた唇からは、いつの間にか甲高い嬌声が洩れていた。
フラガが痛みだけではない、深く重い快感を感じていることがわかるそれに、根元まで己のすべてを収めてしまうと、
クルーゼは漸く満足したように深く息をついた。

「ムウ・・・」
「っ・・・、も、いいだろ・・・っ!?」

下肢に収まったそれの熱に翻弄されながら、フラガの腕が弱々しくクルーゼから身を離そうと宙を切った。
両の手の指を絡め、壁に縫い止めたフラガを見下ろす。唇を噛んで、快楽と痛みに耐えていたらしい彼のそれは、血の味がした。痛々しげなそれを、癒すように舌で舐め上げて。
クルーゼは、再び唇を重ねた。
フラガは眉を寄せたが、彼の身体を押し返す気力などなかった。
深く絡められた舌を甘噛みされ、身体が痺れるようだった。下肢に在る"彼"の脈動も、フラガの思考を麻痺させていく。

「―――っう・・・、あっ!」
「・・・漸く、素直になったな」

含み笑いと共にそう投げかけられ、しかしフラガは脱力した身体を男の腕に預けた。
どんなに抵抗しても、したくとも、所詮。
するりと前の昂ぶりに指を絡められ、ぞくりと背筋が震える。一度許してしまえばもうなし崩しになってしまう自分の身体が、フラガは大嫌いだった。

「・・・ムウ」
「・・・、なんっ・・・だ、よっ・・・」

悔しげに見上げる彼の表情は、朱に染まり、甘く歪んで、
それはひどくクルーゼの目を楽しませた。いつも反抗的な目を向けられているだけに、その水を湛えたような蒼の瞳はこの世のものとは思えない美しさだと、クルーゼは本気で思う。
そのままの体制で、クルーゼは手元の時計をチラリと見やった。
爆破予定時刻が迫ってきていた。逃げるなら、もう、そう時間はない。だが、クルーゼは軽くため息をつくだけで、再びフラガの唇に触れる。
久しぶりに腕に収めた身体は、にわかには離し難くて、理性と感情の狭間でクルーゼは揺れていた。
黙ってキスを続けていると、フラガの中がどくりと脈打った気がした。熱い。これほど安堵できる場所は、クルーゼには他にないだろう。
なぜなら、彼は。
クルーゼの、唯一の血縁。すべての始まり、アル・ダ・フラガを父に持つ、己の兄であり、そして息子。
他の誰でも駄目なのだ。己のこの醜い感情を受け止めるのは、この男でなければ。
憎しみ、怒り、嫉み、それらすべての負の感情。原点はここにあるのだ。彼には、嫌でも受け止めてもらわねばなるまい。
再度、腰を突き上げてやれば、揺れる身体に不安を覚え、しがみ付いて来る幼い若者。
耳元に唇を寄せると、クルーゼは静かに囁いた。

「・・・あと、少しで爆破が始まる」
「っ・・・」

驚きに目を見張る彼の身体を、クルーゼはなおも貪り続けた。
まるで、現実から逃げ出そうとするかのように。

「もうすぐで、ここは跡形もなくなる。資料も、データも、関係者も、すべてを呑み込んでな。
 ・・・どうする、ムウ。一緒に逝くか・・・?」
「え・・・」

思いがけないクルーゼのその誘いに、フラガは戸惑う自分を隠せずにいた。

―――何を、言っている・・・?

耳を疑うようなクルーゼのその言葉に、目を見開いて目の前の彼をみやれば、その青の瞳は冴え冴えとした光。いつも嘲笑が張り付いたような彼の瞳は、今はただ、真摯だ。

「一緒に、って、お前・・・」
「―――それとも、お前が来るか?私の元に・・・」
「あ・・・っ・・・、やめ―――・・・!!」

ぐい、と身体を引き寄せられ、その不安定さにフラガは脅える。
両の手で尻を捕えたクルーゼは、そのまま入り口を拡げるようにして更に結合を深めてきた。
先ほどの傷が、再び開かれていくような痛みがフラガを襲うが、
けれど宙に浮かせるようにして己の楔を銜え込ませているクルーゼに、フラガはしがみ付くことしかできない。
再び、腿を伝う赤の色。刺すような痛みと、内臓が押し出されるような圧迫感。

「あ・・!やめ、クルー・・・っ!!」
「お前が、悪い・・・」

何度も腰を落とすようにして奥を突き上げられ、眩暈がした。
裂かれる様な痛みと最奥を貫かれる深い快楽は常に同時で、フラガは身悶えるしかない。
同じように彼の均整のとれた腹部で擦られた前も、涙を零して快感を訴えている。
耐えられない。もう、痛みも、快楽も。
解放されたいと、フラガの全身がそう訴えてくる。

「あ・・・!ラ、もっ・・・―――っ!!」
「・・・っ」

首筋に噛み付くようにして奥を突き上げると、フラガの中が激しく収縮する。
どくり、と全身の血流が沸騰した。気付けば、互いの腹部を濡らす白濁。そうして、自身もまた、彼の奥へと精を吐き出している。
痺れたように動けないままのフラガの腰を支え、己の劣情をすべて放ってしまうと、
クルーゼは男の身体を抱き締めたまま、彼の顔を見やる。
憔悴しきった顔は軽く青褪めて、そうして、既にその瞳は、瞼に閉ざされてしまっていた。
己が示した問いにも答えぬまま、眠りの世界へ旅立ってしまった彼に、
クルーゼは少しだけ寂しそうに笑みを浮かべる。

カウントダウンは、もうそこまで来ていた。
資料も、データも、関係者すら一人残らず消滅させるために、己はここへ来たのだから。
すべきことは、ただひとつだけ。
そう、ただ―――・・・














研究所は、崩壊した。
爆破予定時刻の直前に、陽動部隊が周囲の敵を全滅させ、そして駆けつけた。
逃げ出せた者は、一人としていなかった。
立ち上る煙、周囲の森すら焼き尽くす勢いの炎。すべては、無に帰した。あの、愚かでくだらない、研究の成果もすべてみんな。

「・・・ラウ!!」

炎に崩れ落ちる研究所の内部から、戻ってきたのはクルーゼだった。
その腕に抱えているのは、乱れた地球軍服を身に纏った、薄汚れたような人間。少年は目を見開いた。そして、その後ろに待機していた、Blue Eyesのメンバーたちも、同じように。
クルーゼが先ほどまで身に着けていたコートを羽織らせていたものの、皆が皆、気づいてしまっただろう。
それが、かの、クルーゼが唯一愛していた男だったということに。
敵軍の、兵士。
だが、誰も、何も言えなかった。
誰も、否定できる立場にはいなかった。
クルーゼが、どれほど彼を憎み、そして愛していたか、
知らない者は、ここにはいない。

「・・・連れて行くの?」

少年の問いかけに、クルーゼは今一度、腕の中の存在を見やった。
これほど大切で、愛していた男を、こうして手放してしまった理由は、もちろんある。
過去、短かい間だったが、共に過ごした時間。
そうして時が過ぎ、別れねばならない日、手を伸ばしたのはクルーゼのほう。
だが、結果的には、こうして地球軍と、ザフト軍に分かれ、
今ではもはや、敵対せねばならない立場。
どうしてあのとき無理矢理にでも連れて行かなかったのか、今でもクルーゼはわからない。

「・・・いや」
「どうして。あれほど・・・」

そこで言葉を切って、少年は少しだけ顔を背けた。
あるのは、取るに足らない、馬鹿げた感情。クルーゼが己でもなく、そして普段共に過ごしている紺の髪の青年でもなく、
この唯一の血縁を一番に思っていること。それはとうの昔に知っていることだけれど、
やはり、目の前にするのは、辛い。
いっそ、強引にでも、プラントに連れて行けばよいと思うのに、
どうして、この人はそれほどまで―――・・・

「・・・・・・優しすぎるよ、貴方は」
「レイ」
「欲しいのなら、奪えばいいんだ。どうして、こんな・・・」

ぽふっと頭を撫でられ、少年は言葉を紡ぐのをやめた。
クルーゼは、すべてわかっている、といった風に苦笑する。けれど、少年の言葉に従うことはしなかった。
何故なら、クルーゼは。
欲するより、憎むより、それ以上に彼を大切に思っていたから。
己とは違い、これからも長く長く続くであろう未来の光を、どうして遮ることができるだろう?
それも、自身の欲望のためだけに。

木陰には、横たわる青年の姿。
火の届かないその場所を眺めながら、少年は呟いた。

「・・・罪な人だね。あんた・・・」





end.



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