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「パシオン」


後編


「ん・・・」

目が覚めたのは、ザァザァというシャワーの音を感じたからだった。
傍に、クルーゼはいない。シャワー室から聞こえる音は、きっと彼が入っているせいだ。
何度達したかわからないほどに欲を吐き出したフラガの身体は、
動こうにも動けず、ただシーツに包まり、そうしてクルーゼを待っているしかない。
明け方まで続いた情交のせいで、まともに眠れていないため、瞼が重い。
仕方なく、そんな消耗した身体を少しでも回復させようと、
フラガは再び瞳を閉じ、ベッドに身を預けた。
カチャリ、と音がして、室内に入ってくる人の気配。
もちろん、クルーゼだと分かっているのだが、
わざわざこの重たい体を押して、彼におきていることを伝えるのも面倒でならない。
そうしているうちに、クルーゼが傍らに腰掛け、髪を梳いている感覚を覚えた。
まったく、この男は、まだ・・・
反発する言葉はいくらでも浮かぶのに、身体がどうしても、言うことを聞かない。
だが、流石に唇を寄せられて、フラガは重い瞼を開けざるを得なかった。
今日は、・・・そう、確か、友人に誘われていた。
何も、断りも入れていない。すっぽかすわけにもいかないだろう。フラガはだるい身体をようやっと起こした。

「ムウ」
「離せよ・・・。今日は、予定があるんだよ・・・」

力の入らない腕でクルーゼから逃れるように手を振って、
フラガは立ち上がろうと身体を傾けた。
しかし、あれほど激しい情事を続けた後の身体が、まともに動けるはずもなく、
それに加えて頭もガンガンするものだから、
フラガはひどく顔を顰めた。

「行かなければいい」
「・・・そういうわけには行かねーよ」

背後から抱き締めてくるクルーゼの腕に、不覚にも心地いいと感じながらも、
フラガはさすがに夜の空気を断ち切ろうと首を振る。
ひとたび狂ってしまえば身も世もなく喘いでしまうこの身体も、朝がくればまた、日常に飲み込まれる。
それは、事実だ。今更、変えようもない。変えようとも、思わない。
だが、本当は―――

「私が、行かせない。それでいいだろう」
「・・・っ」

クルーゼの言葉に、フラガはハッと目を見開いた。
それは、彼が気付かなかったこと。本当の、己の望み。
日常に囚われ続けるよりも、今、この胸に燻る熱のままに生きられたなら、
どれほど幸せだろう。
けれど。

「お前は私を責めればいい。私のせいで、行けなかったと。・・・私のせいでおかしくなったのだと。それが、一番気楽だろう?」
「・・・・・・」



ああ、気楽だよ。
そういうんだったら、さぁ。
どうせだから、俺のすべて、奪ってくれない?
だって、俺は。
長いこと軍人で、地球軍やってきて、部下もいて、慕ってくれる若者達もいて、
仲の良い友もいて、好意を寄せてくれる女性だっているんだよ。
あんたは素直じゃないっていうけど、どうやればあんたへの想いのまま、すべてを捨てられる?
漸く手に入れた、ごくごく真っ当な人生を、どうやれば抜け出せるってんだ。
今だって、あんたに抱かれてるなんて認めたくないし、男を愛してるなんて考えたくもないってのに。
あんたへの想いは俺の、一生の汚点。
だから、俺はあんたが手を伸ばしてくれても、きっとそれを取れないんだろうな。
まったく、胸が痛いよ。
どうすれば、この苦しみから抜け出せるだろう?
それとも、恋なんてそんなもんだって?

「・・・ムウ?」

まったく、俺の心も望みもすべて分かっているような顔をして、
肝心なところで気付かない、変な奴。
なんで、こういうところで強引じゃないんだろう。
あんたが、俺の気持ちなんか何も考えないで、本当に自分勝手に俺を振り回していたなら、
きっと俺はあんたを憎むだけで、それでよかったろうに。
憎むほうが気楽だってこと、あんたならよくわかってんだろ?

「・・・・・・・・・馬鹿」

ねぇ、俺を本当に好きだってんなら、断ち切って見せてよ。
俺を縛る、日常という鎖を。
あんたが俺を連れ去ってくれたなら、俺は。
今度こそ、素直に、
あんたを愛せるのに―――・・・




end.



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