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星蒼圏 - 保管庫モバイル
「心の糸。」
青年が、眠っている。
読んでいた本を片手に、秋風が舞う公園のベンチで。
―――やっぱ、綺麗だよな。
単純に、チカはそう思う。
今の時間、本来なら授業に出ているはずのシトとチカは、
真面目に学校へ通うみちるを尻目に、
2人してフケていた。
勿論、その理由は、
月の返済期限が迫っているこの時期、
思うように稼ぎが上手く行っていないことである。
とはいえ、みちるという違法ゾンビナビがいない以上、
そう簡単にはいかず、
結局ダラダラとこうして無駄な時間が過ぎていくのだった。
そうして。
休憩と称して、公園のベンチでいつも通りお互い文句を垂れながら
ゲームを弄っていたチカは、
いつの間にか隣がいやに静かなことに気づいた。
確か、隣はつまらなそうな本を読んでいたはずだ。
「おィ、シト」
返事はない。
といっても、相手は基本的に反応の薄い男、
ただ無視していることも多々あるため、
結論を急ぐのはまだ早いだろう。
とりあえずチカは、自分の手元がひと段落ついてから、
めんどくさそうに髪を掻きあげ、シトを見た。
「っシ、・・・・・・」
名を呼ぼうとしたチカは、
すぐにそれを呑み込んだ。
眠っていた。
それも、読みかけの本を左手に持ったまま、自分のほうに寄り掛かるように。
「・・・・・・」
珍しいこともあるものだ。
チカはヒュ、と口笛を吹いた。
普段、あまり無防備な自分を見せたがらないシトの、
こういう場面は非常に貴重だと思う。
確かに、昨晩のゾンビ狩りは明け方まで続くハードなものだったため、
疲れているのは当然だろう。
2人が学校を休んだのは、そういう理由もある。
それにしても。
(・・・イタズラ書き、できっかな。)
チカは、シトの顔を覗き込みながら、思う。
一向に目覚める気配のない青年は、
仕事の相方がそんなことを思っているなどつゆ知らず、
こんこんと眠り続けている。
じっとシトの顔を見つめていたチカは、
思わずゴクリと喉を鳴らした。
(・・・やっぱ、綺麗だよな。男のクセに)
切れ長の瞳は瞼に隠され、顔立ちの良さが際立って見える。
普段のように形の良い唇が口汚い言葉を紡がない分、更にその美貌が映えるのだろう。
チカは何故か悔しそうに親指を噛んだ。
(ちっ・・・ヤなこと、思い出しちまったぜ)
チカの頭に浮かぶ、あのイケ好かない男の言葉。
―――『徐福』の完璧な芸術品―――
芸術品。
そう、確かに、美しい。
本人の目の前では絶対言わないが、
チカはよく考えることがある。見た目以上に大人びた、その瞳の色合い。
仲間達が傍にいても、ふとした瞬間に見せる物憂げな表情。
気高く、気品のある顔立ちと、その生まれ故の高貴さを纏った空気。
すべて、所詮はそこらのガキである自分が
持つことのできないもの。
別に自分がそうなりたいと思うわけではないが、
それこそが橘思徒という男を魅力的にさせているのだろうと思う。
そこまで考えて、チカはますます顔を歪めた。
―――あの野郎・・・
徐福の芸術品。だが、実際の彼の扱いはどうだろう。
決して、蝶よ花よと大切に扱われているわけではない。
徐福にとって、橘思徒は研究の成果だ。失えないのは、彼自身ではなく、
不老不死のその身体。
人間という枠から外れた、バケモノ。
彼を囲うものたちは、例外なく奇異の目で彼を見、
例外なく彼を陰鬱とさせただろう。
私用、と言って姿を消すシトの顔を見れば、そのくらいすぐわかる。
姿を消すその前の日の、普段以上に棘のある態度。
わざと喧嘩を売るような言葉を吐いて、絶対に引き止めさせないように意識しているような。
(・・・別に、)
引き止めたい、わけではない。
確かに、たとえひと時でもシトをあの男の下に行かせるのは、
気に入らない。
性格の悪い、趣味でシトを傷つける男だから、尚更だ。
だが、引き止めればシトが留まってくれるかといえば、それは無理な話だったし、
たとえ自分の元にいてくれたとしても、
私用をすっぽかせば痛い目を見るのはシトのほうなのだ。
そんなことで、シトを苦しませたくはなかった。
どうしようもないのだろう。
そもそも、シトは150年も死者として生きてきて、
自分はたった半年。しかも、これからも一生ゾンビとして生きていく気は毛頭ない。
シトとの付き合いは、どうせこのローンが完遂するまでの短い間だ。
だから、シトの全てを自分のものにしたいなどとは、
間違っても思ったことはなかった。
ただ、
(・・・俺の近くにいる間は、)
自分のモノにしておきたい。
ただ、それだけだ。
さらりと、彼の滑らかな黒髪に、指を差し入れた。
頭を、支えて。そのまま、顔を近づける。
唇に、噛み付いた。この場所が、公共の場だなどとは考えもしない。
そうして、
「んっ・・・」
息苦しさに、眉を寄せるシトの、その表情を、
チカはただ黙って見つめていた。
ばさり、とシトの左手が持っていた本が、地に落ちた。
びくり、とシトが意識を取り戻す気配。
「―――っ赤、月っ・・・!な、に、やって・・・!!」
「どこがいい?」
「・・・・・・・・っ???」
目覚めたばかりの頭では、この状況は理解しがたい。
ましてや、チカの問いかけの意味など。わかるはずもなかった。
シトは眉を潜めた。
それから、手の甲で唇を拭い、焦ったように周囲を見渡す。
「だから、どこがいい、って聞いてんだよ」
「何っ・・・を、言ってる・・・?というか、その前に、俺の上からどけ!馬鹿」
「テメーこそ、さっさと質問に応えろっての」
見下ろすチカの瞳は何故か怒りの炎に燃えていて、
ますます不可思議な表情をシトは浮かべる。
自分が知らないうちに眠ってしまっていたことはわかったが、
その間に、チカに何があったというのだろう。
ましてや、この状況。
よくわからないが、こんな公共の場で、
どうやら自分はチカに襲われかけているらしい。
(・・・・・・。)
シトはいいようのない不安に駆られた。
もしや・・・
いや、もしやではない、十中八九、そういうことなのだろう。
「だーかーらー、どこで抱かれたいかっつってんだよ!」
「馬鹿が、死ね!!クズめ」
ありったけの視線で突き刺すように。
普段の自分のそれは、それなりに効果があるとシトは自負しているのだが、
残念ながら今回ばかりは、チカには効かなかった。
「わーったよ。テメーはいいってことだな。ココでよ。」
「は・・・?!っん・・・!!!!」
再び、塞がれる唇。しかも、今度は掴まれる腕の力が半端ではない。
まずい、こいつ、本気なのか!?
混乱する頭の中、シトは焦りに焦った。
こんな、公共の場でなど。
馬鹿げている。本当に馬鹿げていると思う。
だが、このままではチカは、
どうあっても、自分を放してはくれないだろう。
この状況を抜け出すには、シトが知る方法は1つしかない。
「・・・・・・チカ・・・、頼むから・・・、」
「あ?」
名前で呼んでやれば、チカは大抵反応を返してくれるということを、
シトは知っている。
ついでに、己のおねだりの効果も。
シトは精一杯瞳を潤ませて、チカを見上げた。
「っ・・・夜、に・・・」
墓穴を掘る言い方だが、とりあえずは今降る火の粉を払わねば。
これで、大抵はチカは引き下がる。
その分、"夜"の約束から抜け出すのは困難になるが、
今、ここで無理矢理犯されるよりはまだマシだ。
夜のことは夜で考えればいい。
そんなことを考え、シトはチカを見上げた。
しかし―――
「いいか、シト。俺はいつ、なんて聞いてないぜ。どこがいいかって聞いてんだよ」
「・・・夜にヤらせてやると言ってるんだ。大人しく引き下がれ」
「俺は今!ヤりたいの。」
絶対に引き下がらない、と言わんばかりのチカの瞳。
なにやら普段とは違うらしい雲行きに、シトはさらに顔を顰める。
まったく、付き合ってられない。
なんで自分が、ガキの我侭に折れてやらねばならないのだ。
「っ・・・ワガママな・・・」
「テメーが悪い。」
「なっ・・・なんで、俺が」
「無防備なカオ、晒しやがって・・・喰って下さい、と言わんばかりの顔、すんじゃねーよ!」
「知るか!貴様の目が腐ってるだけだろうが!!」
暴れるシトの身体を、チカは押さえ込む。
公共のベンチが、ガタガタと揺れた。シトにしてみれば、
こんなことろで男同士もみあいをしているだけで恥ずかしい。
全く、何をやっているのだろう。
だが、その間にも、チカの指は己の襟元を緩めてくる。
本当に、このままではこんな人目のある場所で犯されてしまうのではないか。
もしかしなくとも絶体絶命のこの状況に、
シトは頭を抱えた。
このまま流される?冗談じゃない。
たとえヤられるにせよ、チカの言いなりは御免だった。
「・・・・・・救いようのない馬鹿だな」
「おうよ」
まったく悪びれない声音だからこそ、忌々しい。
シトは、諦めたように腕を伸ばし、チカの首に腕を絡めた。
そのまま、渾身の力でチカを引き寄せ、そうして体制を入れ替える。
お、とチカが驚いたように目を見開くと同時に、
ぐらりと揺れるベンチ。
やばいかもな、と思ったその矢先、
派手な音を立てて2人はひっくり返ってしまった。
「―――痛っ・・・何しやが、」
「寮へ戻る。」
「っ・・・は?」
キョトン、と不思議そうに見上げるチカに、
今度はシトがイライラと眉を顰めた。
さっきまで自分が身勝手に場所を要求していたくせに。
こちらが折れて、彼の望む通りに口にしても、意味がわからない、といった顔をするのだから。
これでは、まるで自分が誘っているようではないか。
まったく、付き合ってられない。
「・・・・・・・・・、死ね」
「なんだよ」
横を向いて、口の中でボソリと呟く。
それから、シトは身を起こすと、そのままくるりと背を向けた。
「っ、おいシト!どこ行くんだよ」
「・・・、・・・・・・・・・・・・・」
なんて。
なんて馬鹿な奴なのだろう、と思う。
だが、それはそれで好都合だ。
上手く行けば、このままチカの毒牙から逃れられるだろう。
けれど、現実はそう甘くはないことぐらい、
シトにはわかっていた。
「どこにも行かせないぜ、シト」
「・・・・・・おい」
がしり、と背後から抱き込まれ、唇を噛み締める。
まったく、どうしてこの阿呆は。
だったら、素直に自分について来ればいいではないか。
さすがに羞恥心も限界のシトは、
チカの腕を乱暴に掴むとつかつかと歩き出した。
「っだったら早く来い!こんな場所で・・・なんて、俺は絶対に嫌だからな!」
「・・・?!シト・・・お前・・・」
背後の男の声音に、
シトの顔が一気に熱を増した。
何故。
どうして、こんな男の欲に折れて、自分が付き合ってやらねばならないのか。
(・・・・・・俺も、つくづく馬鹿だな)
「たっぷり愛してやるからな♪シトぉ。」
「・・・・・・くっ・・・」
公園を抜け、人々がすれ違うそんな場所で
顔から火が出るほど恥ずかしい言葉を紡ぐチカに耳を塞ぎつつ、
シトは寮へと急いだ。
「・・・まさか、シトのほうから誘ってくれるとはねー」
「・・・・・・五月蝿い」
ばたり、とシトの部屋のドアを閉めた途端、
チカは早速先ほどの続きを実行に移した。
先ほどの確かめるような丁寧なキスとは違い、明らかに欲望を映した貪るようなそれに、
シトは早くも自分の馬鹿げた行動を後悔し始める。
何故、あのまま腕づくでチカを殴り、ヤツの暴挙から逃れなかったのか。
あまつさえ、自分から「せめて寮で、」と言ってしまうなんて、
考えれば考えるほど、自分が情けない。
「・・・っオイ、舌入れるなッ」
「ぁあ?」
息するのが苦しいんだ、と頬を紅を落して呟くと、
まさかシトから今更そんな往生際の悪い言葉を吐かれるとは思ってもみなかったチカが、
信じられないような、呆れたような顔をする。
クソ、とやけになってチカに向かって吐き捨てると、
チカは嬉しそうにニヤニヤと口の端を歪めて来た。
「自分から誘ったくせに抵抗すンなよ。焦らしてるワケ?」
「・・・誰が・・・っ!!」
腰に腕を回され、足を後ろから蹴られれば、
当然、バランスを崩したシトの身体が背後のベッドに沈み込む。
いかにもボロそうなそれが、2人分の重さで早くもギシリと音を立てた。
1人なら大して気にならないその音は、
自分に現実を強調しているようで、気に喰わない。
今、己はチカに組み伏せられ、犯されようとしている。
それは、絶対に受け入れられない耐え難い事実のはずなのに、
なぜかシトは逃れられなかった。
悔しそうにチカを見上げれば、
子供がオモチャを見つけてはしゃぐような、そんなチカの瞳の色合い。
だが、その中に確かに存在する、
男としての欲望。
ただ、人間としての性的欲求を満たすためなら、
その手の女なんてゴマンといる。チカだって、そうモテない男ではない。
自分など相手にせずとも、
ひと声かければカノジョの1人や2人、簡単になり手が出てくるに違いない。
そこが、シトには不思議でならなかった。
なぜ、普段あれほど気にいらないと己を非難するくせに、
こんな行為を求めてくるのか。
甚だ疑問だ。
「っ・・・やめっ・・・オイ・・・!」
「おーー、相変わらずキレイなカラダ。」
ぶち、とボタンが飛ぶのではと思うほどに勢いよく上衣の前を開かされ、
シトは瞬間脅えたように目を瞑った。
そういえば、今はまだ昼間。
いかにボロ寮であっても、いかに窓の外が墓地であっても、
日が射す時間は空は青いし、光も届く。
そんな明るすぎる部屋で、自分は既に上半身を晒している。
この状態は、それなりに不快だ。
男ではあるが、舐めるように隅々まで見下ろされれば、
誰だって抵抗したくもなる。
頬を染めながらも、シトは必死にチカを睨み付けた。
「っこの・・・!」
「なまっちろい肌にここだけ濃いピンク。エロいカラダしてるよな、シトってば」
「んっ・・・やめろ・・・!」
既に力の入らない抵抗は、チカ相手には意味がない。
シーツに肘をついて逃げようとするが、
当然、チカの腕がシトの腰を掴み、逃れることはできなかった。
それどころか、身を捩るシトの身体に吸い付くように、
勃ち上がった果実を嬲るチカ。
舌で散々濡らした後、歯を立ててまるでもぎ取るかのように齧り付く少年に、
シトはパサパサと髪を揺らす。
逃れようのないそれは、知らず知らずのうちに快楽に摩り替わり、
シトの思考を曇らせていくのだった。
唇が、もう片方の飾りに映った。
唇を離されて、一瞬ひやりと外気に触れたそれに、
すぐに絡みついてくる指先。
今度は、親指と人差し指で引っ張るように。
明らかに遊ばれている。
普段なら欲望に任せた性急な愛撫をするくせに、
今日はなぜかおかしかった。
ただただ欲をぶつけられて、乱暴に扱われるのならば、
ひたすらクソだとか死ねだとか、反発の言葉を頭に浮かべていればいい。
そのほうがかえって気が楽だ。
だが、
「なぁシト・・・イイだろ?」
「っあ・・・馬鹿、そっ・・・・・・!」
耳元でそう囁く男の、その吐息に痺れるような感覚を覚える。
熱い息。認めたくはないが、身体が反応を返しているのが自分でもわかる。
こんな行為を重ねていても、実際の関係は愛などという生温いものではなく、
離れたくとも離れられない故の、
忌々しさと腹立たしさを内包したヤツ当たりのようなカンケイ。
それが今、すべての感情が偽りの快楽に摩り替わっていく事実に、
シトは恐怖すら感じてしまいそうだった。
長い長い年月を、生きてきた。
それこそ、チカが生きてきた時間の、10倍もの歳月を。
チカが感じている生ける屍としての恐怖など、
自分はとっくに失っている。
何も感じないのだ。
喜びも、怒りも、哀しみも、楽しさも。
仲間たちに付き合ってムキになることもあるにはあるが、
その根本では、どこか覚めた自分がいる。
皆と共にあって仲間ヅラをしている自分を嗤う自分がいるのだ。
だから、こんな場面でも、考えてしまう。
所詮、その場限りの関係。
望んで傍にいるわけでもなければ、一生共にあるわけでもない。
そんな相手に、犯されて、感じて、
自分を見失うくらいに快楽を貪って、
一体どうなるというのだろう。
無意識のうちに深みに嵌っていくような、そんな感覚が、
シトは怖いと思う。
何も感じなかったはずの自分の内部での変化が、
恐ろしかった。
できれば。
このまま、深みに嵌らずにいたい。
ただ、抑え切れない欲に溺れて、ただ即物的に求められるのならそれでもいい。
身体だけでなく、心まで侵食されるのは、
絶対に御免だった。
だが。
「っ―――・・・痛」
「ボーッとしてんなよ。殺すぜ?」
無理矢理顎をつかまれ、乱暴にキス。
首を振ってもついてくるそれに翻弄されている間に、
チカのもう片方の掌は下肢へと伸びる。
両腕にワイシャツを引っ掛けたまま、ずり下ろされようとするスラックスは、
シトの身体を更に卑猥に見せているとチカは思う。
片手で、ベルトの前を外した。
内部に、躊躇なく手を差し入れた。
当然、抵抗の意志をチカに訴えるシトだが、
唇を塞がれ、更にチカの全体重を身体で支えている状態では、
抵抗すらままならない。
そうしている間にも、皺一つないスラックスは、下着ごとシトの足下へ。
外気に晒されたその部分が、
冷やりとした感触をシトに伝えてきた。
「っつ・・・ぁ、ちょ・・・、待て・・・!」
「嫌だね。さっきからどんだけ待たされたと思ってんだ」
「っん・・・!!」
ぐっと、チカの掌がシトの雄を握り込む。
突然の苦痛に目を瞑るシトに構わず、チカは視線を下肢に向けた。
片方の足首には、いまだ引っかかっているスラックス。
両腕にはシャツ。
半端に乱された衣服が、更にシトの身体の卑猥さを引き立てていると思う。
当然、その姿は誰が見てもいやがおうにも欲情させられてしまう光景で、
チカもまた、その淫らさに目を細めた。
うっすらと上気した、狂気じみた恍惚の表情を見せるチカを見上げるシトは、
更なる恐怖を覚え、全身を緊張させた。
「・・・ぁ、やめろ・・・!」
「うるせぇ・・・」
じっ、とその部分を見つめていたチカが、
やがて背を屈める。
っひ、と知らないうちに声が漏れた。チカの舌先が、雄の先端に触れたのだ。
「ぁ、・・・あ、だっ・・・」
「―――感じさせてやるぜ、嫌というほどによ。」
シーツを掴んでいた指先を、チカの髪に絡める。
引き剥がそうと、シトはもがいた。しかし、もはやそれだけの力を、シトには込めることができない。
それどころか、色素の薄いその髪を、梳いてやるようなその動き。
チカは、そんなシトの仕草にすら身体を熱くする。
犯してやりたい。
いつも冷静に見せるその表情が、快楽に煙る様子が見たい。
何も感じないように装いながら、
その実は結局のところ人間と同じなのだと、
シトに思い知らせたかった。
そうして、もうひとつ。
(・・・俺の前でくらい、素直になれよ、シト)
心を、麻痺させて生きて欲しくなかった。
シトは年月のせいだと、そう言っていた。だが、チカはそうは思わない。
そうでなければ、生きてなどいられなかったのだ。
あの、残酷な環境下で。
心を麻痺させて、何も感じないのだと自分すら偽っていなければ、
とても生きていけなかったのだろう。
いうなれば、自己防衛本能―――
シトの無感動さ、無関心さには、そんな空気が見え隠れしていた。
だからこそ、チカは。
無理矢理にでも、シトの本音を見たいと、
そう思うのだ。
「っあ、かつきっ・・・、も、やめっ・・・!」
「嫌だね。」
一言で却下して、再び深く深く口内に招きいれる。
唾液を絡めて、幾度も舌で筋を嬲った。喉の奥まで付き入れ、吐き出しては突き入れ、を繰り返した。
多少苦しかったが、致し方あるまい。
辛くとも少し視線を上げれば、羞恥と快楽に耐え切れず、
善がる男の姿が映るのだから。
根元に指を絡め、そうして強く吸ってやれば、
髪に差し入れられていたシトの指が、ひときわ強く掴まれた。
「―――っっ・・・!!」
(・・・シト・・・)
あれほど嫌がっていたのに、耐え切れない衝動にシトはついに折れた。
本当は、達きたくもなかったし、チカの口の中に吐き出すなど死んでも嫌だった。
だというのに、気づけば、目の前には口の端を白濁に汚し、顔を上げた男。
にやりと笑って、手の甲で唇を拭う。
まったく、馬鹿にしている。
身体の脱力以上に、シトはチカに呆れた。
「・・・何が、楽しい・・・・・・」
「んー、全部?」
「・・・・・・」
そもそも、自分たち合法ゾンビと違法ゾンビの違いは、
本能が支配する欲を抑えられる程の強い精神力を持つか否かにあって、
実際、シトは理性で無意識のうちに抑えることができている。
だというのに、なぜ、
他人の手でその本能を暴かれ、
更に理性を失う羽目になってしまうのか、
シトには全く理解できなかった。
そうして、それこそを愉しみとしている、チカというおかしな存在に対しても、また。
「ほら、今度は俺を愉しませてくれよ?」
「愉しませてやる義理はない、楽しませてもらった覚えもない」
不機嫌そうに横を向いてかすかな抵抗。
だが、さすがにこの状況に来て、シトだとてこのまま終われるなどとは思っていない。
ただ、願わくば、
何も考えず、何も感じず、
無感動のうちにすべてを終わらせることができたなら。
「・・・そろそろ、素直になれよ、シト」
「・・・・・・っ」
剣呑な口調と、身体をひっくり返される乱暴な腕。
枕に額を押し付けて、シトは高く腰をあげさせられる羽目になっていた。
明るい室内に、晒されるシトの奥。
チカの両腕が双丘を掴み、そうして内側を押し広げた。
「・・・―――は、やくっ、しろ・・・!」
「どうしよっかなー。」
羞恥に耐え切れず、ひくひくと痙攣を繰り返すシトの秘密の場所。
キスを落とし、舌でなぞってやれば、
腕ですら支えることができず、シトの上半身がシーツに落ちた。
ますます、乱れた格好のシトに、
いよいよチカの欲望は限界まで張り詰めていいた。
もはや、一刻の猶予もない。
本当はもう少し焦らしてやりたかったけど・・・、とチカはぼそりと呟いて、
そうして己の雄を下肢の奥に宛がった。
当然、女と違って濡れないそこは、
けれど、先ほどの唾液とチカの先走りのせいで、
そう問題にはならなかった。
いや、その表現には多少御幣がある。
チカにとっては問題なくとも、シトにとってはそれだって大問題である。
「っ、ばっ・・・馬鹿、このままヤったら切れ・・・!」
「どーせすぐ治るゾンビのくせに、うっせーよ」
「っ―――・・・!!!」
ひとつ深呼吸をした後、一気に内部へと責めてくるチカの雄。
馬鹿げたことだが、この瞬間、
シトは人生で最大の後悔を身に纏っていた。
今となっては数え切れないほどこんな下らない行為をしてきたが、
チカと身体を重ねるたびに、
毎回毎回、シトは己のなかで最大の後悔を味わう。
下肢を走る激痛や、流されてしまいそうな深い快楽や、壊れてしまいそうな頭や、身体。
すべて、シトには耐えられないほどの、
激しい強さでもってシトを追い立ててくる。
シトは必死に、指先でシーツを噛み締め、耐え続けた。
(っ・・・も、絶対、付き合ってやるものか・・・)
これもみんな、全て、
あの、馬鹿で無鉄砲な相方のせいだ。
苦痛に耐えるために、脳裏に浮かんだチカの顔に向かった罵倒の言葉を浴びせながら、
シトは口元から嬌声を幾度となく零していた。
だが、そうして、それを聞くたびにチカの下肢が熱を増すことを、
シトは知らない。
ただ、この波が過ぎ去るのを待つだけだ。
「・・・・・・シト、感じるか・・・?」
「・・・知、るか・・・・・・っ」
チカの囁く声音にも、もはやまともに返す言葉はない。
ただ、真っ赤に染めた頬を枕に押し付け、けだるく喘ぐシトを見て、
チカがどう思ったのか。
少しだけ、寂しそうな笑みを浮かべ、
チカは再びシトの腰を抱え直した。
より深くを抉ろうと強く腰を押し付けて、そのまま背後からシトを抱き締める。
「っ・・・チ、カ・・・?」
朦朧とした意識の中、シトの口から漏れる己の名に、
チカは胸が熱くなるのを感じていた。
「・・・で、今日はどうしたんだ、チカ」
激しかった熱が、過ぎ去った後。
幾分整った息をもう一度ゆっくりと吐いて、シトはチカを振り向いた。
自分に素直になれと言う割に、行為の後のチカは素直でない。
シトに背を向けてベッドに横向きになっているチカに、
シトは怪訝そうな目を向けた。
そう、確かに、今日はなんだかおかしかった。
自分に行為を求めてくること自体は、以前だとて多々あったが、
それは大抵が夜。
ただの若者としての性的な欲に駆られたとしても、
常識のない男ではない。ましてや、公共のあんな場所で、自分を襲おうとするなど。
「・・・・・・別にィ」
「そういう顔ではないな」
「・・・っとに。なんでもねぇよ。オメーがちっとばかしキレーに見えたから、欲情しただけだっての」
不機嫌そうな声音に、やれやれとシトは首を竦めた。
チカの言葉が真実とは全く思わないが、とりあえずこれ以上聞き出すことは不可能だろう。
人との係わり合いがニガテな自分には、特に。
諦めて、だるい身体をベッドに投げ出した。
とはいえ、2人で1人分のベッドだ、範囲はかなり狭かったが。
「おかしな奴だ」
「なんとでも言えよ。」
相変わらずの不貞腐れたような声音に、
シトは何故かおかしくなった。くっくっと、肩を震わせて笑う。
チッ、と舌打ちをして、
こちらもベッドに身体を投げ出すチカ。
そうして、唇を噛んで。
(一瞬でも、アイツに取られるのが嫌に思った、なんて言えるかよ)
心の中で、呟く。
そう、それが、本音。
決して、愛などではない。けれど、どんな手段を使ってでも、繋ぎとめておきたいと思うのだ。
傷つけてもいい。壊したって構わない。
自分のその感情は、狂気じみていて、己すら恐怖を覚えるほど。
けれど、それでも。
(・・・俺は、)
「赤月?」
乗り上げるチカに、眉を寄せる。
シトの声にも応えず、
チカは再び、シトの唇に自分のそれを重ねたのだった。
end.
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