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星蒼圏 - 保管庫モバイル
「命の灯 01」
いつかは知ってしまう日が来ると思っていた。
けれど、あのまま何も知らずに、自分に反抗的な目を向けてくれればいいのに、と何度思ったことか。
クルーゼは眠るフラガの柔らかな金髪に指を絡ませると、ゆっくりと彼の頭を撫でた。
「―――ムウ」
あくまでそっと。
彼の眠りを妨げる気はなかったから、そっと。
名を呼ぶ。
それだけで胸が苦しくなるのはこの男を愛しているというどうしようもない感情が自分の中にあるからで、
クルーゼは唇を噛み締めた。
だからこそ。
知られたくはなかった。
その表情を曇らせることなど、自分にはでいなかった。
自分を見据えるきつい瞳、
いつもいつも素直にならない反抗的な態度、
ふと見せる、こちらまで嬉しくさせるような笑顔。
その全てが見られなくなることが嫌だったのに。
すっ、と指先を頬に寄せると、フラガの軽く開いた口元から小さな声が洩れた。
うっすらと開かれる瞳。
それはひどく潤んでいる。
覗きこむクルーゼの顔を視界に映したフラガは、寝ぼけているのかぼんやりと彼を見つめた。
「クルー・・・ゼ・・・?」
ゆっくりと紡がれる言葉。そして伸ばされる手。
幾分ほっそりとした感のあるそれを取り、クルーゼはそれに口付けた。
滑らかな肌に唇を滑らせれば、甘やかな吐息が洩れる。
フラガは夢のように甘い行為に恍惚となりながら、瞳はクルーゼを見つめていた。
そうして。
「・・・・・・・・・ごめん」
ぽつりと。
片方の手で、シーツを噛んで。
フラガは謝罪の言葉を紡いだ。
クルーゼは何も言わない。
ただ唇での愛撫を続けるだけ。
フラガはきゅっと唇を噛み締めた。
「あんたの・・・苦しみ、俺、なんにもわかってなかった・・・・・・」
ただ、この男に翻弄されて。
憎みさえしていた自分が、許せなくて。
ふと涙がこぼれそうになって耐えるように横を向くと、すっと気配が動いた。
びろうどのような唇が頬に触れる。そのまま、唇を捕らえられ、重ねられる。
懐かしい気がする男のその感触に溺れたフラガは、飢えたように男の舌を求めた。
「っ・・・クルー・・・、―っラウ・・・!」
キスの合間に、名を呼んで。
その度に視線を絡ませ、唇を貪り合う。
足りなかった。
クルーゼの全てを受け入れるには、到底。
こぼれてしまった涙を見せたくなくてクルーゼの背にしがみつく。
耳元に男の吐息を感じ、肌で鼓動を感じられる『今』が、本当に夢のようだ。
夢・・・・・・。
―そうだ、夢だよな。
この男が、こんな所にいるはずがない。
フラガは自嘲の笑みを浮かべた。
なら、これは自分の願望なのだ。
もう一度、この男に会いたかった自分の―。
「ムウ・・・」
耳に吹き込まれる名を呼ぶ声に、涙が止まらない。
次々と溢れてくるそれを唇で掬い取って。
クルーゼは静かに言葉を紡いだ。
「泣いてくれるな・・・・・・私のために」
「っでも・・・!俺っ・・・あんたにさんざんヒドイ事しちまってた・・・!」
ぎゅっ、とクルーぜの上着を握りしめて。
ごめん、と許しを乞う姿。
誰も、悪くなどないというのに。
こうやって自分を責めるフラガに、クルーゼはふう、とため息をついた。
こうなるから、こうなってしまうから、
この男には、何も背負わせたくなかったというのに。
「なぁ俺・・・どうしたら・・・」
償える?
消え入るほどの声音が、言葉を紡ぐ。
償い?
何を償うというのだ。
私にこの世界でただ1つだけ彩りを与えてくれたお前が、何を償おうと?
絶望だけではない、この世界に留まる理由をくれたお前。
そのお前が、なぜ私に許しを乞う必要がある?
私は・・・
「償いなどいらない」
フラガの背に手を回して。
強く、抱きしめる。
この腕にお前を抱けることがどれほどの安らぎだったか。
それが、私を『ここ』に引き止めた理由。
「―――お前が欲しい」
「っ・・・!」
幾分強引に組み敷かれた。
絡め取られた指が、白いシーツの上に縫い止められる。
思わずはっと息を呑んだフラガは、しかしすぐさま振ってくるクルーゼの愛撫に翻弄され眉を寄せた。
「・・・っだめ、だ、クルーゼ・・・!お前、身体・・・」
必死でクルーゼの身体を案じるものの。
男は愛撫をやめず、それどころかフラガの弱いところを執拗に唇で刺激してくる。
ところどころ刻まれる朱の所有印が、より羞恥を煽った。
「クルー・・・ゼ・・・」
それでもまだ行為をやめさせようと拒絶の声を上げるフラガを、顔を上げて見据える。
その瞳はこれまで見たことがないほど痛々しくて。
フラガは胸が痛んだ。
「別に、無理をしたからどう、という問題ではない・・・」
「・・・・・・」
言葉に詰まる。
フラガは空いた手をクルーゼの顔に伸ばした。
いつも見ていた顔。
自分の前に晒される美しいこれが、本当は偽りだなんて思いもしなかった。
いや、偽りなどではないのだ、本当は。
ただ運命が、それを良しとしないだけで。
「・・・っ」
あの時見た、痛々しいその痕をたどる。
クルーゼはその手を掴み、指先に唇を寄せた。
「お前が気にすることじゃない」
憎むべきは愚かな父であり、破滅へと向かうだけのバカな人類であり。
気にしても仕方ない、とクルーゼは笑った。
どんな、気持ちなのだろう。
目の前に確実な死を見据えるその心は。
「クルーゼ・・・」
クルーゼの手が、フラガのシャツを器用に脱がせた。
本格的な愛撫に移るのだと知って、羞恥に頬が染まる。
けれど、もはやフラガは抗わなかった。抗えなかった。
ただ細い指先が自分の肌を辿る様を、黙って見つめていた。
今の自分には、こんなことくらいしかできることがない。
この男は自分が欲しいと言ってくれた。
どうして、素直にならずにいられるだろうか?!
「ああ、ムウ・・・久しぶりだ、お前の体・・・」
こちらも恍惚としたように。
上気した頬が、このうえなく美しい。
「ああ・・・本当に、久しぶりだな・・・」
過去には毎日と言っていいほどしていた行為。
戦争が始まって、それが激化して、会えなくなって。
そうして今まで、たまには交わってきたものの、いつだって飢えていた。
そんなこと、知られるわけにはいかなかったけれど。
「は・・・あっ・・・」
既に立ち上がっていた胸元の突起は、キレイな紅色に染まっていた。
それを唇で含んで、輪郭を舌先でなぞる。
軽く甘噛みしてやるだけで身体をすくませる彼に満足気な笑みを浮かべて、片方のそれは指先で挟んで。
フラガはくしゃ、と自分の胸に埋まる男の髪を握りしめた。
そのまま、クルーゼの手は下肢へと下りていく。
肌を辿る指先が脇腹のあたりに触れ、フラガは思わず目を見開いた。
あの時、負った傷跡。
今はほとんど回復していたが―。
「・・・っ・・・」
「痛かったか?」
「・・・い、痛くないわけないだろ、このバカ!!」
思わず洩れてしまう反抗的な声音。
それにひとしきり笑った後、クルーゼは痕を残すそれに口付けた。
裂かれた皮膚に沿って舌を這わせるだけで、悲鳴に似た声があがる。
「や・・・」
「すまない・・・コクピットまで破壊するつもりはなかったんだがな。」
「っ・・・相変わらず手加減なしだよな・・・。俺だって死ぬ時は死ぬんだぜ?」
「ふっ・・・私だって同じさ。死ぬ時は死ぬ。それだけのことだ」
「クルーゼ・・・」
傷跡に吸い付くように口付けて。
顔を上げたクルーゼは、名残惜しそうに濡れたそこを指でなぞる。
それから先ほどすっかりと暴かれ、外気にさらされている下肢に目を映した。
「っ・・・」
見られている―たったそれだけの事なのに鼓動が跳ねあがる。
幾分懐かしそうに肌を辿る視線がいたたまれなくなって、フラガはプイと横を向いた。
「・・・あんたも脱げ」
脱ぎかけだった白い軍服を引っ張って。
男のまとう服を全て取り去らせる。
今は自分と対して変わらない年齢を刻む肌が、妙に痛かった。
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